PSS【洛中の蝶 7】

第七話です。


 2/2〜2/3に過去のSSを一気読みして拍手を下さっているかたがいらっしゃいまして。お二人様のようにも思えますが、ありがとうございます!

 今回あるシーンを書きたくなってごにょごにょしていました。某Yさまのお話の影響が大と思われます。お風呂お手伝いってなんていうかエロチックだし、すごく相手に身を任せちゃっていますよね・・・(*´ω`*)ムフ

 さて、もう今夜からフィギュア団体戦予選が始まりますね!だいぶ前から使えなかった録画機器がとうとうお逝きになったので、今回も夜中起きを頑張ろうと思います。お肌にはドSな生活の始まりです( ̄▽ ̄)イマサラカ


【洛中の蝶 6】〜【告知とお礼と〜】に頂いた拍手コメントにお返事させていただいています。お心当たりのある方は覗いてやって下さいね♪
【洛中の蝶 6】に鍵コメ下さったChさま、ここにもポー仲間が!イメージはああいう耽美なのです、イメージはww兄さんはもりーの涙に釣られたんだと思いたいですね。さて兄さんは婚約者の兄に気持ちがあったのでしょうか(;゚∀゚)フヒヒヒヒ







その選択が正解だったかなどと
一体誰にわかるだろう
答えを決めるのは
畢竟自分の心でしかない




 森永と宗一はその日のうちに列車で名古屋を離れ、夜中すぎには大阪に入った。ホテルへと向かう車の中で、宗一は森永の肩に頭を預けて寝息を立てている。ここ数日はほとんど眠れなかったようだ。列車の中ではやたらとコンパートメントの中で歩き回り、眠気を覚ましていたようだったが、座席に落ち着けばもう限界だったらしい。
 ホテルに到着すると宗一はぼんやりと手を引かれるままに車を降りたが、冷えた外気で目が覚めると、黙って森永の手を振り払った。森永も何も言わず、身振りで促しただけで建物に入っていく。宗一は少し離れてついてきた。

 部屋は最新式のスチーム暖房で心地良く暖められている。足取りの重い宗一を部屋に引き入れると、森永は上着と帽子をポールハンガーに掛け、シャツの袖を捲り上げた。
 スイートルームなので部屋にバスルームがある。風呂の支度をし、トランクを開けて衣類や小物を引っ張り出す。数日滞在する予定のため、それなりに荷解きを終えたところで浴槽に湯が溜まった。
「伯爵」
 森永がドアの前に立ったままの宗一に声を掛けた。その声に宗一はのろのろと顔を上げたが、その目の強い光は決して損なわれてはいなかった。
「伯爵などと呼ぶな。俺はもう違う」
 宗一は森永を憎んでいるかもしれなかった。彼は森永が自分で言った通り、家族と家を守るために否応なくここまで連れて来られたのであり、森永に同情したのでも不死に魅力を感じたのでもない。きっと憎いだろう。殺したいくらいだろうか、それとも死にたいくらいだろうか。それでも森永は焦がれるほど愛しい人から、心以外の何もかもを奪うつもりなのだ。
「では……宗一さん、とりあえずお風呂どうぞ。手伝います」
「風呂くらい一人で入れる」
「いいから。手伝わせて下さい」
「………」
 宗一はそれ以上は抵抗せず、外套を脱いで森永に手渡した。森永が埃を払ってポールハンガーに掛けているうちに、宗一は上着を脱ぎながら浴室に入っていく。脱ぎ捨てられていく服を受け取ってランドリーサービスの籠に入れると、森永も裾を捲って宗一に続いた。

 泡を立てた洋風の浅いバスタブに身体を横たえ、宗一は浴槽の縁に頭を乗せて目を閉じている。髪は槽外に垂らされていた。
 森永は持ち込んだ化粧台の椅子に腰掛けて海綿を手に取り、湯を張った洗面器に浸して丁寧に宗一の髪を濡らした。
 宗一は聞かない。これからどうするのか、これから自分がどうなるのかも。それは森永には徹底的な拒絶に思えて、さりとて謝るのもお門違いで、ただどうしようもなく髪を洗う。 
「ここには書類の偽造を請負っている仲間がいるんです、表向きは弁護士ですが。京に入る前に準備が必要ですから」
「名刺の奴か」
 森永が話しかけると宗一は夢から覚めたように身動きして、ばしゃりと音を立てて腕に泡を滑らせた。
「はい。かなこさんが話はしてあるって言っていたので、とりあえずその計画通りで。かなこさんのことも言わなきゃ……」
 一通り身体を撫でた宗一は自分で浴槽の栓を抜いた。慌てて森永が背を流してシャワーを当てると、がしがしと髪をすすいでさっさと立ち上がってしまう。
「着替えは明日買ってくるんで、今日のところは俺ので我慢して下さい。髪もちゃんと拭いて下さいね。何か飲むならルームサービスを」
「わかった」
 バスローブを羽織って出ていく後ろ姿を心許なく見送り、森永は自分のために湯を張りなおした。

 森永が浴室から出てくると、宗一はバスローブのままベッドの端に座り片膝を抱えていた。森永がベッドの反対側に膝を乗せると、フランスベッドのスプリングが小さく軋んだ。
「おまえは何者なんだ」
 宗一はやっと、呟くように問うた。だがその問い掛けには、森永は答えを持っていない。
「さあ……よくわかりません。人間でないことは確かだけど」
 腰をひねるように向き直った宗一に怖れる色はない。ただ淡々と続きを促す。
「年は取りません。不死身ではないけれど、怪我をしてもある程度ならすぐ治ります。生きていくためにはほんの少し……人間の精気が必要なだけです」
「精気、ね……肉を喰らうのか、血を啜るのか?」
 宗一はあざ笑うように顎を上げた。まだ湿っている髪が束になって肩から滑り落ちる。
「こんなところまで連れて来なくても、すぐ殺せば良かったのに」
 森永はゆるく首を振った。殺すつもりはない。しかし生かすつもりもない。
「血を啜ると言えばそうなのかも。こうやるんです」
 ベッドの上に身体を引き寄せ、森永は長い指で宗一の首筋を撫でた。耳の下、柔らかい部分に軽く押し付ける。宗一は触れられてぞくりと鳥肌が立つと同時に、すっと血の気の引くのを感じた。目を伏せた森永が口の端をぺろりと舐める。
「飲み過ぎなければ殺すことはありません。だけど俺はあなたの血が欲しいんじゃない」
 方法がある。宗一を、永遠に森永に縛りつける方法が。
「仲間にしたいんです。かなこさんは反対したけど……」
「年を取らんと言ったな。ひょっとして彼女のほうが年上か?」
 宗一は初めて二人に会った日、露台に現れたときのかなこの姿を思い出していた。陰のある艶を目元に漂わせた女の表情。なるほど、あれは一瞬だけ覗かせた彼女の素顔だったのかもしれない。
「あの人は俺が知っているなかで一番年長でした。本人もはっきりした年代は憶えちゃいなかったけど、500年だか生きてるって」
「500年……」
 それはあまり実感を伴わない数字だ。宗一は考え込むように俯いたが、すぐ顔を上げ、森永を睨みつけた。
「三好を殺したのはおまえか」
「……そうです」
 森永は目を逸らした。今度こそ自分を恐れ、疎むだろうか。それとももしかしたら感謝されるだろうか。だが宗一から出たのは意外な言葉だった。
「余計なことを」
 大きく舌打ちして頭をがしがしと掻く。
「おまえがそんな面倒事に首突っ込む必要なかったんだ。正体がバレたらまずいだろう。そりゃかなこ嬢も反対するさ」
 予想を裏切る反応に森永は驚いた。そうしなければどんなことになっていたことか、解っていないのだろうか。
「じゃあ……じゃあ伺いますけどね、あいつの言いなりになるつもりだったんですか?」
「仕方ないだろう、俺が罪を犯せば家が取り潰される。そうなりゃどっちみち巴は大学にいられなくなる」
「財産目録まで作っておいたくせに……その後で死ぬつもりだったんじゃ」
 森永は腹立たしくなって宗一に取りすがった。掴まれた腕を見下ろす視線に侮蔑を感じ、眼を見ることはできない。
「結局あいつと同じことをしてるくせに……よく言うよ」
 一瞬目の前が暗くなり、気がつくと森永は宗一を組み敷いていた。同じではない。三好が自分と同じに、宗一を愛していたわけがない。
「違います。同じなんかじゃない……違うって、解らせてあげます」


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