PSS【途絶えども火矢のごとく 6】

最終話です。


ちょっと間をおいただけでわんわんディとか失念しておりました(・∀・ι)
教えていただいて焦ってアップしようとしたものの、間に合いませんでしたよorz

吸血鬼ものはこれにて終了です。遡ってみたら年明けにスタートして、もう4ヶ月。
時が経つのは早いものですね〜・・・
三行ポエムみたいなやつを毎回つけていたんですが、これが結構手こずったり気恥ずかしくなって躊躇したり、でもまぁ厨二病は不治の病ですからね(・∀・)イマサラ

この後リクエストの関係でしばらくPSSが続きそうです。苦手な方には申し訳ないですがご了承下さいませm(_ _)m



【途絶えども〜 5】に頂いたコメントにお返事させていただいています。お心当たりの方は覗いてやってくださいね♪



熱い脈動は途絶えども
その眼差しは火矢のごとく
ともに燃え続け いつか
灰になるまで



 森永が荷造りを終えて自室を出ると、宗一のスーツケースはすでに玄関に出されてあった。荷の主はリビングの掃き出し窓を開け放し、ベランダ用のつっかけを履いて紫煙をくゆらせている。
 あのつっかけはこのアパートに入居して最初に買ったものだ。明日には靴の履き替え文化のない国に行く。きっと業者が忘れ物として処分するだろう。
「済んだか?」
「ええ。もういつでも出れます」
 宗一は携帯灰皿_____もう灰皿もスーツケースの中だ_____を取り出して煙草をもみ消すと、ジーンズの尻ポケットに突っ込んで手摺りにもたれかかった。空には欠けはじめた月がかかっている。
「静かの海、晴れの海……月は変わんねーな」
 ぽつりと呟いた宗一は、肘を手摺りに預けたまま捻るように半身を森永に向けた。
「こうやっておまえを待っていたことが、あったよ」
 すぐに宗一は月に向き直ってしまったが、森永は宗一が微笑んだのを見ることができた。

 懐かしい、思い出。もちろん憶えている。初めて言葉を交わした夜会場の露台。気の合う友人同士として心を許し、真剣に、ときには戯れるように夜更けまで語り合って_____音楽もざわめきも今は遥かかなた。

「気持ちは変わるもんだ。おまえを憎んだこともあったかも知れん。だがそれももう忘れた」
 森永は黙ってベランダに踏み込んだ。靴下のままの足の裏がひやりと固い感触を伝える。
「もしあの時に戻れるとしても、俺は同じ道を選ぶだろう。不幸ヅラして俺を後悔させんな」
 背後から回した腕は振り払われない。宗一の肩口に顔を埋めた森永は、頬の濡れる感触に瞼を閉じた。鼓動とともに感情を失わないのは、人ならぬ身に僅かに残された恩寵なのだろうか。本当に呪われた存在なら、この胸が震えるほどの幸福を感じられるはずがない。
「俺の気持ちは変わりません。あの頃からずっと、あなたを愛してる」
「そうか。じゃあ……本当に変わらないものなのか、俺が見届けてやるよ」
 月光に照らされた細面が夜空を見上げた。立ち待ちの月はただ、静かにそこにある。




「……では、手続きが済みましたらお呼び致しますので、少々お待ち下さい」
 平日とはいえ昼食どきの銀行はそれなりに混雑している。昼休みを利用して来ているのだろう、スーツや制服を着ている姿が目立つ。どうせ年金暮らしの身、もっと早く来店すればいいだけの話だが、今日に限ってはそうもいかない理由があった。
「ねぇねぇおじーちゃん絵本読んで!」
「いいよ、好きなの持っておいで」
 娘の第二子出産のため、一週間前から預かっている孫娘はまさに目の中に入れても痛くない愛らしさだ。彼女のお気に入りのテレビ番組を見てからでなくては出掛けることはできなかった。しかし可愛い孫を膝に座らせて揃って画面に向かうのは、彼自身にとっても至福のときと言えた。目を細めて隅の本立てに向かう後ろ姿を追っていると、背後でポーンと呼び出し音が鳴った。

「森永さま〜。お待たせ致しました、森永さま〜」
 女性行員の単調な呼び出しに応じて立ち上がった人影を、彼は何となく目の端で追った。
 何十年も前のことだが、彼にはそういう名の友人があったのだ。ある日突然、彼に一言もないまま姿を消した。事件というわけではなく、共に在籍していた大学の退学届けなどはきちんと提出されていたらしい。親友だと思っていただけに彼はショックを受け、以来苦い気持ちとともに今も時々思い出す。
 斜め後ろにある窓口は近年狭まった彼の視界では捉えにくかったので、彼はじわじわと身体をずらし、窓口に向き直った。窓口の前に腰掛ける後ろ姿が、記憶に残る友人の姿とあまりにも似通っていたのだ。彼の位置からは横顔すら見えないが、やや長めの黒髪から僅かに覗く頬の曲線、細身ながら骨太な幅広い背中。カウンター下に収まりきらない脚は、立ち上がれば相当の長身であることを表している。
 だが似ていれば似ているほど、他人の空似に決まっている。もしその友人だとすれば、今は自分と同じ70歳になろうというところなのだから。そう頭では解っているのに、どうにも目を離すことが出来ない。

「おじーちゃん、これ!」
「ん?ああ……すまんがちょっと読んでてくれ」
 ちょこんと長椅子の隣に腰掛けた孫娘の頭を軽く撫で、彼はまた青年に目を戻した。
 青年は用事が済んだらしく、立ち上がって去ろうとするところだった。彼から離れて行ってしまうのを追おうかどうか一瞬迷い_____彼は瞠目した。
 青年の連れだろう、待ち合いの椅子から立ち上がって声を掛けた男に目を奪われたのだ。
 名前を何と言ったか。咄嗟に思い出すことは出来なかったが、その個性的な風貌は良く憶えている。
 友人ほどではないが背の高い細身の男。茶色がかった長髪を結わえて右肩に垂らしてある。クラシックな丸眼鏡は最近のレトロ・ブームでよく見かけるものだが、当時は野暮ったい印象しかなかった_____そうだ、友人からは従兄弟なのに”先輩”と呼ばれていた。若いのにもう眉間に皺が刻まれたような気難しい表情。視線に気付いたのか、切れ長の眼がふと彼を見た。

 _____なぁ山口、永遠に変わらないものってあると思う?

 彼はぞわりと耳の後ろが粟立つのを感じた。
「まさか……まさか、そんな」
 これが他人の空似だなんて、そんなまさか。
 眼鏡の男が黒髪の青年に、彼の方を顎で示した。振り向いた顔が友人_____森永哲博のものであることを、彼はもう疑わなかった。
 森永は彼を認めて目を見開いた後、小さく笑んだ。それだけで、もう背を向けて”先輩”と共に去って行く。

「山口さま〜。お待たせ致しました、山口さま〜」
 出入り口を見つめたまま動かない彼を、幼い孫が腕をとって揺らした。
「おじーちゃん、呼んでるよ?」
「……ああ、わかった」
 再び女性の呼びかける声が耳に届く。彼は起居時に軋む腰を庇いながら立ち上がった。もう一度だけ二人の出て行った自動ドアに目をやり、今度こそ窓口に足を向ける。


 _____永遠に変わらないものって
  あると思う_____?



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