PSS【10 Things I Love About You 9】

第9話です。


夏休みが終わったなんて言ってたら、もう9月も終わりですね。一日って本当に24時間かなぁ灰色の男たちが暗躍してるんじゃないのかなぁ。



【10 Things 〜 8】に頂いたコメントにお返事させていただいています。お心当たりの方は覗いてやってくださいね♪
 鍵コメくださったChiさま、巴くんカワイイですか良かったε-(´∀`; )盗撮はいかんですよね!でも売られてたら買うよね!




 大体にして宗一は寝起きの良いほうではない。二日酔いともなれば最悪と言っていい。意識が浮上した瞬間から襲ってきた頭痛に、宗一は通常の倍は深い皺を眉間に刻んだ。瞼を閉じたまま歯噛みして、とりあえず現状を把握しようとする。
 昨晩居酒屋で飲んでいたことは憶えている。やや過ごしてしまったことも。帰った記憶がないということは、酔い潰れた可能性がある。しかし今いるのが路上や公園でないことは断言できた。温度は快適だし、柔らかいものの上に寝ている。枕(と思われる)の感触が違うので自分の部屋ではないことも確かだった。すん、と鼻から息を吸い込んでみたが、鼻は効かなくて何もわからない。口は粘ついてうまく開かず、ひどく不快だった。徐々に身体も目覚めてきたので手足の感覚を確かめるように身じろぐと、シーツらしきパリッとした綿の肌触りが直接皮膚をすべった。
「目ぇ覚めました?」
 突然かけられた声に驚いて、宗一は跳ね起きた。途端、頭を抱えてうめく羽目になる。
「う……い、つ」
「ごめんなさい、驚かせちゃいましたか」
 すまなさそうに顔を覗き込んでくる男とその背後の様子から、宗一は眼鏡がなくともすぐどこにいるのかが分かった。森永の部屋だ、すでに数回世話になっている。
「みず」
 唇をこじ開けて掠れた声で呟くと、すぐに森永がミネラルウォーターのペットボトルを持ってきて、蓋を開けて手渡してくれる。宗一は飲み始めてからひどく喉が渇いていることを自覚し、夢中で喉を鳴らした。500mlを息もつかずに飲み干し、満足の息を吐いて口の端から零れた雫を手の甲で拭っていると視線を感じて、宗一は顔を上げた。見ているのは当然森永だ。しかし宗一は裸眼だと目鼻の位置はわかっても、表情まで見ることはできない。
「なんだ?」
 首を傾げてみせると、森永はつと手を伸ばしてきた。ペットボトルを寄越せということだと理解して手渡せば、森永はなぜか小さく笑って立ち上がる。
「朝メシ食べられそうですか?味噌汁とおにぎり用意してありますけど」
「……じゃあ、味噌汁だけ」

 食欲は当然と言うべきか、ない。森永がコンビニで下着や歯ブラシを買っておいてくれたので、先にシャワーを浴びてから啜った味噌汁は二日酔いの身体にしみじみ美味かった。
「シジミ汁までは用意できなかったんですけどね」
「いや十分だ。うまい」
 森永が夜のうちに洗濯して干しておいてくれた衣類は、高い気温のおかげですっかり乾いていた。シャワーを浴びてとりあえず胃が落ち着き、身支度も整えてやっと頭が働き出した宗一は、唐突に弟がいないことに気が付いた。
「おい、巴は?」
「黒川さんのとこですよ。それより先輩、来週予定してる検証実験ですけど」
「く ろ か わ だ と?」
 何気なく話題を逸らそうとしたが駄目だった。自分はおにぎりを頬張っていた森永は、怒りをはらんだ宗一の低い声に背筋が冷えるのを感じつつ、強張った笑みを浮かべる。
「解散したとき終電過ぎてましたし、黒川さんも潰れかけてたんで、介抱がてら」
「ふざけんな!」
「ひっ」
 宗一が拳を叩きつけたローテーブルはガラス製だ。思わずテーブルの心配をしてしまうくらいには強烈な一撃だったが、宗一は手にダメージを負った様子もなく何故か森永を殴りそうな目付きで詰め寄ってくる。
「おまえ黒川の家を知ってるなら案内しろ。隠すと為にならんぞ」
「わわわかりました」
「今すぐだ」
「はひっ」
 森永は口内の米の塊を味噌汁で無理やり飲み込み、目を白黒させながら立ち上がった。


 森永のアパートから黒川のアパートまでは普通に歩いて十分程度だ。部屋を出る前にトイレを装って素早く黒川にメールしたが、返事は返ってきていない。それで森永はともすれば駆け出して行きそうな宗一の足を遅らせることに終始した。
「おい、まだか」
「もうそろそろですよ」
 恐ろしいのは二人がベッドにいるところや、いかにも事後な雰囲気の部屋に踏み込んでしまうことだ。今はまだ疑っているだけだからいいが、事実を知るにしてももっと穏やかな方法があるはず。あまりに露骨では弟を案じる宗一が怒るのも勿論だが、全員が傷つく結果になりかねない。
 自身の苦い記憶を反芻しながら、森永は自分が黒川と巴が上手くいくと信じて疑っていなかったことに気付いて苦笑した。だが居酒屋での様子からすると、悪いようにはならないと思える。
「それにしてもちょっと過保護じゃないですか?巴くんだって男なんだし、もう大学生ですよ?」
「そういうことは関係ない。巴は狙われやすいんだ。ストーカーだって俺がもう二人捕まえてるんだぞ」
 宗一によると高校のとき下着を盗まれることが度々あり、家の周囲を張って怪しい男を捕まえたら盗撮した写真がごっそり……という事件が立て続けにあったのだそうだ。宗一がその犯人をどんな目に合わせたのかは、森永は怖くて聞くことは出来なかった。

「おい、まだなのか」
 宗一は二日酔いも手伝ってこの上ないほど凶悪なご面相だった。だいたいの場所を聞いたことがあるだけだから、と遠回りしたり黒川のアパートのぐるりを巡ったりしていたが、もう限界だろう。
「この辺のはずです。多分あの建物……」
 道沿いの民家の向こうに覗くアイボリーの壁を指して、森永は固まった。吊られて見上げた宗一も足を止める。
 森永と宗一が歩いていたのはそのアパートの北西で、道路から民家を挟んだ向こうに、等間隔に並んだ玄関ドアが見えている。その二階の西端に人影があった。1メートルほどの通路壁に遮られていても、開かれたドアを支えている男が中にいたもう一人を抱き寄せ、キスをして部屋に押し戻すのがはっきり見えた。それが黒川と巴であったことも、もちろん。
 森永が恐る恐る横を見ると、宗一は顔面蒼白で震えていた。
「センパイ待っ」
「おのれ黒川許さん!!!!」
 猛然と飛び出した宗一の後を追って走りながら森永は黒川の携帯電話を呼び出したが、やはり応答はない。数回のコール音のあと留守番電話サービスに切り替わってしまう。せめて玄関に鍵をかけていればという願いも、森永が階段下に差し掛かったあたりで虚しいものとなった。

 蹴破らんばかりに開かれた玄関扉はその勢いのまま跳ね返り、轟音を立てて閉まった。部屋の中からは悲鳴、怒鳴り声、何かが割れる音。何が起こっているか大体想像できる森永でも入るのは少々躊躇ってしまう。
 意を決して踏み込むと、足元にはマグカップが無残な姿を晒していた。キッチンの床には黒川が口元を抑えて転がり、その前に立ち塞がった巴と土足のままの宗一が怒鳴りあっている。
 修羅場だ。 
 破片が散らばって危険なので、心の中で黒川に謝りつつ、森永は靴のまま床に上がった。

「おまえは騙されとるのが分からんのかっ!変態にいいようにされやがって!」
「兄さんには関係ない!僕が自分で決めたんだから!」
「この……っ!」
 宗一の平手が巴の側頭部に鋭く振り下ろされた。まともにくらった巴は肩から床に叩きつけられ、吹っ飛んだ眼鏡が壁にぶつかって嫌な音を立てた。
「巴くん!!」
 ガバッと身を起こした黒川が巴に被さるようにして気遣ったのが火に油を注いだ。青筋を立てて足を振り上げた宗一を、森永が羽交い締めにして引き離す。
「せんぱい落ち着いてっ話を聞いてあげて!」
「うるせぇ離せ!!この変態ホモ野郎、巴を誑かしやがって!」
「誑かされたりしてないもん!何にも悪いことしてないのに兄さんのわからずや!!」
 叫ぶ巴の打たれた頬は赤く、目には涙が滲んでいる。しかし黒川を庇って一歩も引かない姿を、森永は胸が痛くなるほど羨ましいと思った。
「宗一くん、殴るなら俺を!気の済むまで殴ってくれていいから、どうか付き合いを認めてくれ!」
「黒川さんっ」
 なりふり構わず土下座する黒川に、さすがの宗一もやや勢いが萎えた。この隙にと森永も説得を試みる。
「先輩、一時の勢いや気の迷いじゃないですよ。二人は真剣に」
 拘束したまま訴える森永に、宗一が振り返った。青ざめた額の下で、信じられないものを見るように目が見開いている。
「おまえ知ってたのか」
「え」
「知ってたんだな」
 泣くかと思った。丸眼鏡の奥で、切れ長の眼が歪む。
 動揺した森永の身体から力が抜けた途端、宗一が身を捩った。避ける間もなく森永の襟首を掴み上げ、ギリギリと絞め上げてくる。
「知ってて黙ってたんならおまえも同罪だ。後悔させてやる」
 手加減のない力に、森永は本気で抵抗した。しなければ失神しそうだった。宗一の手首を引き剥がそうとしてその力に諦め、代わりに腕を伸ばして彼の肘を掴んだ。脇を開くように力を籠め、生まれた隙間でせわしく息をする。顎を下げて服を掴む指を振りほどこうとすると、血走った目が視界に入った。
 鬼のような形相だ。いくらゲイ嫌いだからと言っても限度を超えている気がする。酸素の足りない頭で不審の理由を考え_____と、玄関チャイムの音が森永の耳に届いた。
 再びチャイムの音。更にドアがガンガン叩かれる。
「警察だ、開けなさい_____!」


         
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