PSS【10 Things I Love About You 10】

第10話です。


間が開いた上に短くてすみません。時間は指の間から零れる砂のようです。

年賀状の注文なんかもしちゃったりして、実感のないまま年越しの準備開始か〜なんて、まぁ例年のことですが。


【強奪したのは〜】に頂いたコメントにお返事させていただいています。お心当たりの方は覗いてやってくださいね♪
 鍵コメくださったTaさま、萌えのバトンは愛を繋ぎます!私も美味しい思いをさせていただきまして(*^^*)バニー衣装でリングに立つ森永くん…違和感ない気するんですww





 宗一が襟を離したので、森永はよろよろと後ずさり、ちょうど背後にあった冷蔵庫に寄りかかった。涙目で咳き込んでいると、ガチャリと玄関扉の開く音が聞こえる。そういえば鍵を掛けていなかった_____音の方に目をやると、黒川が立ち上がって玄関に向かうのが視界の隅に映った。宗一は昏い目をして立ち竦んでいる。
「センパイ……?」
 森永の呼び掛けにも反応しない。なぜか茫然自失の体だ。激昂の仕方といい、それはどこか病的な反応にも思えて気にかかる。

「ケンカかね、怪我人は?」
 入ってきたのは柔和な面差しの初老の警察官だった。部屋を一瞥すると、立ち上がって壁に凭れている巴に歩み寄った。声を掛けて被害を確認する。
 怪我をしたのは黒川と巴で、森永はまだ喉を抑えて咳き込んでいる。仁王立ちの宗一は、頬に朱を昇らせて拳を握り締めたままだ。理由はともかく状況は説明するまでもないだろう。
「きみは大丈夫か?」
「……え?」
 しかし気遣う声は宗一にも掛けられた。宗一は顔を上げたが、警官に焦点を合わせるのには数瞬を要した。
「私のことは憶えていないかな。二年前にもきみを担当したんだが」
「ああ……」
 その言葉に納得の色を見せた宗一は、頷いて顔を逸らした。
「大丈夫です。そうじゃなくて……あいつらは、俺が殴りました」
「そうか」
 二年前?と声に出さずに呟いた森永は巴に物問いたげな視線を投げたが、巴も不思議そうな顔で首を振る。

「さてどうするね?話を聞いても良いし、落ち着いたのなら君らだけで話し合ってもいい。被害届を出さないなら基本的に警察は介入しないが」
「被害届は出しません。兄弟喧嘩、なんです。お騒がせしてすみません」
 巴が落ち着いているので、警官もそれ以上追及はしなかった。全員が納得しているなら、と見渡すのにそれぞれ頷いてみせる。

「あの……通報があったんですか?」
 恐る恐る聞いたのは黒川だ。騒いでいたのは長い時間には感じなかったが、近隣住民がたまりかねて通報するほどだったのなら、今後のご近所付き合いにも影響しかねない。引っ越したばかりで苦情を受けるのは出来れば避けたいところだ。
「いや、たまたまパトロール中だったんだよ」
 警官は最寄りの交番の駐在員だという。兄弟喧嘩もほどほどに、と去っていくのを見送ると、後には重苦しい雰囲気が残された。

 はじめに動いたのは宗一だった。マグカップの破片を避けもせずに踏みつけ、破砕音を立てて玄関に向かう。身を寄せ合っている黒川と巴をちらと見て、しかし無言のままノブに手をかける。
「兄さんが認めてくれるまで、僕帰らないから」
 そっぽを向いて言い放つ巴に、黒川がおろおろと取りなそうとしたが、兄弟は目も合わせなかった。
「俺は認めない。後悔することになる前に考え直すんだな」
「しないもん」
「先輩、あの」
 駆け寄った森永が呼び掛けると宗一は振り向いたが、手の動きは止まらなかった。開かれた扉の向こうから差す午前の明るい日差しに照らされた顔には、傷心がありありと浮かび上がって森永に息を飲ませる。
「おまえはもう顔見せんな」
 するりと出て行く後ろ姿を遮るように閉じられたドアを見つめ、森永はゆっくりと息を吐き出した。



「で、これはなんなワケ」
 翌週1123教室でいつもの時間、机に座って腕を組み脚を組み、椅子を並べた二人を見下ろすリックの頬は先ほどからビキビキに引き攣っていた。
「悪いねぇリチャードくん」
「なんでリックが怒るのさ」
 悪いなどとこれっぽっちも思っていない緩んだ顔と、本気で分かっていないきょとんとした顔。そのどちらも腹立たしくてリックは歯ぎしりした。
「大体先週も!戻ったら誰もイナイって何だよ!完全にハメられた!」
「まあそう言うなよ」
 にやにやしながら口を出したのは磯貝だ。ポータブルのゲーム機で何やらネット対戦をしているようだ。
「そっちだって首尾は上々だったんだろ?なあフィル」
 教室の隅で粘土を捏ねていたフィルに視線が集中する。フィルは応えて親指を立ててみせた。
「それヤメッ!あれは酒とか成り行きとか色々あったのッ!」
「照れるなよ〜」
 温かく見守っています、という空気はいつの間に作り上げられたのか。共同戦線などと言って牽制された感が半端ない。
 こと恋愛ごとに関しては自信があっただけにリックは余計悔しかった。黒川など目じゃないと油断したのもある。磯貝の策略と巴の天然っぷりが予想以上だったのも大きい。
「だからボクはトモエが好きなんだってば!」
 ほとんど負け惜しみのように言って、それでもうリックは諦めた。これだけはっきり言っても巴はニコニコ笑ってありがとう、と答えるだけだ。

「フン、黒川さんなんかオニーサンに狩られればいいんだ」
 ぺっ、とリックは美形にあるまじき、唾を吐く真似をした。その口元を歪めた表情を、フィルが指で作ったフレームに収めてひとり頷く。粘土を途中で放り出して、スケッチブックを広げた。
「まあ狩られかけたけどね……」
 危うく警察沙汰になるところだった出来事を思い出して青ざめる黒川の口にはまだ傷が残っている。腫れは引いたが、巴も同様に痛々しい顔をしていた。黒川は今まで拳で殴られた経験自体がなく、そういう意味での傷も深いが、巴は慣れているそうで、意外にもケロッとしている。
「でもあの兄さんがあっさり引いちゃって気持ち悪いくらい。警察の人が言ってた二年前の話と関係あるのかなぁ?」
「巴くん、それ全然心当たりないの?」
 口を出したのは、ずっと机に突っ伏してうだうだしていた森永だった。先輩に嫌われたと落ち込み続け、誰からの慰めも受け付けないので、時間が解決してくれるのを待つしかないと放置されている。
「うーん……」
 巴は天井を見上げて首を捻るが、やはり思い当たる節はないようだ。大体兄が警察の世話になったなどと、知っていれば忘れてしまうような性質のものでもない。
「二年前の警察沙汰って言ったら、やっぱホモ狩りじゃないの?だってあれ救急車とか来たって」

 磯貝は事件の二ヶ月後くらいに農学部の友人から噂を聞いた。その友人によると、宗一が一人で研究室にこもっていた准教授を訪ね、突然刃物で襲いかかったということだった。宗一は准教授の講義を取ってはいたが、それ以外で二人に特別な接触がある様子はなく、だからホモ狩りなどという理由づけがされたわけだが。

「あれ、僕は全然知らなくて。だからただの噂だと思ってたんですよ。兄さんは乱暴者だけど、そんな曖昧な理由で人に危害を加えるようなタイプじゃないし」
「噂が本当なら傷害罪だしね。それならあの警官も先輩を咎めそうなものなのに」
「そうですよね、どっちかって言うと心配してるみたいだった」
「なんだろう気になる」
 気になるが、森永は目下のところもっと大事な問題を抱えている。机の上に伏せていた上半身を起こし顎を片手で支えて、もう一方の手で折りたたみ式の携帯電話を開いたり閉じたり。宗一からの連絡はなかった。
「先輩、どうすればまた前みたいに傍にいさせてくれるかな……」
 うじうじと携帯電話をいじる森永の背後に、机から降りたリックが回り込んだ。丸められた背中に肘を置き、肩越しに覗き込む。
「テディってば最初の余裕はドコ行ったわけ?そもそもまだ好きって言ってないんでショ?」
「余裕なんて……本気の恋にそんなものはないよ」
 素早く携帯電話をしまいこんでハフ、と悩ましげな息を吐いた森永にリックが首をすくめる。
「あーヤダヤダどいつもこいつも!ボクは帰るからね」
 手近な机に置いてあった鞄を取り上げて出て行くリックをフィルが追う。さっきまで画材を散らかしていたのに片付けの早さは神業レベルだ。

「俺も……先輩のとこ行ってこよう」
 二人を見送り、森永も立ち上がった。自分で言ったとおりだ、余裕なんてない。ここで引き下がったらきっと一生後悔する。
「森永さん」
 呼びかけに振り返ると、申し訳なさそうな顔で巴がペコリと頭を下げた。
「ごめんなさい。帰らないとか言っておいてなんですけど僕、兄さんのこと心配で……よろしくお願いします」
「もちろん。任せてとはまだちょっと言えないけど、頑張るよ」
 森永は笑って頷くと、教室を出た。宗一はいつも通り実験室にこもっているだろう。一からやり直すだけだ、森永の本気はこんなもんじゃない。



                  →11へ







スポンサーサイト

コメントの投稿

Secret

検索フォーム
暴君時計
ゆずるさんから頂きました♪