PSS【10 Things I Love About You 14】

最終話です。


 気がつけば第1話から5ヶ月目になりました・・・話のなかではまだ初秋なんですがorzしかもリクエストを頂いたのがカウンター7000で3月のことでした。月日が流れるのは・・・というか私のペースがかなり落ち込んでいるからなのですが(汗)。なかなか進まずすみません。リク主さま、続きを楽しみにして下さった皆さま、長いことお付き合いありがとうございましたm(_ _)m


 さて、前回から引っ張ってきた森永くんのラブレター(笑)。英詩は元ネタでヒロインが書いたものをもじっています。リク主さま(バイリンギャル)監修により、文法的には自信を持ってお届け(*´ω`*)




ご訪問・拍手・コメントありがとうございます!



 キャップを開けたまま放置したスポーツドリンクのペットボトルが汗をかいている。冷蔵庫から出して二、三口飲んだだけのもの、水滴がまとわりつく範囲は広い。いつの間にか丸々と膨らんだ雫がプラスチックの壁を滑り落ち、すでに底の周囲に薄く出来ている水たまりを広げた。
「はぁ~……」
 ベッドに寄りかかって小さなガラステーブル上のペットボトルを見つめていた森永はずるずるとシーツを滑って床に横になった。院試からこのかたずっとこの調子だ。大学もバイトも休み、出掛けるといえばコンビニに行く程度で鬱々と部屋に閉じこもっている。何もする気が起きないのだ。やろうとしていることならあるが、時間の余裕が嫌味なほどあって逆に身体が動かない。とっくに見飽きているペットボトルから顔を背け、ごろりと転がってうつ伏せになる。
「………はぁ」
 未練がましいのは重々承知だ。どうせ宗一は許してくれまい。

 同じ研究室に所属して一番近くで尽くしていればあるいは、なんて夢は潰えた。これ以上気持ちを押し付けるつもりはないものの、宗一を想う心は本物だと、宗一のためなら何でもするつもりだと、それだけは証明したかった。その手段として院試でトップを取ることしか思いつかなかったのだ。約束を守れば、愛してはもらえなくても信じてはもらえるかもしれない。
 そう思って必死に勉強した。試験を受けた教室で宗一の気配を背後に感じながら、その前から去らねばならないことを考えたら泣けてきて、だから涙跡を残すかわりに想いを綴った。答案用紙を宗一が見るかどうかは五分五分だったが。
 こんなことをすれば失格だと考える頭もあったが、宗一の側にいられないなら合格すること自体に意味はない。不合格になっても福島教授なら頼めば順位を教えてくれるだろうし、それを宗一に伝えてもくれるだろうと当たりをつけてそのまま提出した。なにせ電話はこない。待っているだけでは、何も伝わらない。
 肝心の試験のほうは手応えはあった。かなりの高得点が見込めると思う。後はまわりの成績次第ですべてが決まる。他にもう出来ることもないと思ったら気が抜けて、以来骨の溶けたクラゲみたいにだらだらと過ごしている。

 床に伏せたまま再び溜息をついた時、突然玄関のドアががなりだした。チャイムのピンポンと扉の鉄板を叩くガンガンが入り混じって響き渡る。こんなことをする人間は、知り合いでは一人しか思い当たらない。
「まさか先輩?」
 肘を突いて上半身を持ち上げ、音のほうに顔を向けた森永は、同時に視界に入ってくる部屋の様子に立ち上がるのをためらった。何もやる気が起きなかったので、当然掃除をほとんどしていない。部屋のあちこちに埃が溜まっているし、なんとなく見ては放り出したDVDや雑誌が散らばっている。玄関と、それに続く廊下とも言えない僅かなスペースには出しそびれたゴミ袋や空き缶が積んである。それに洗濯物も溜めていて服がなく、着ているのは襟が伸びたよれよれのTシャツに短パン、髭も5日前に剃ったきりだ。これほどだらしのない生活は森永には久しく覚えがなく、特に相手が想い人では正直居留守を使いたいくらいの惨状だが、これを逃したらもう二度と会えないかもしれない。ぐずぐずしているうちに音が止み、結局森永はそれ以上考える間も無く飛び起きて玄関に向かった。


 扉を細く開けると、果たして宗一が立っていた。その堅い表情は森永が遠慮がちに顔を覗かせると、虚をつかれた驚きに幾分か緩和された。それは研究室で一番よく目にした生真面目な顔つきと良く似ていて、それだけで森永は胸が熱くなって目が潤んでしまう。
「なんだ酷い格好だな。具合でも悪いのか」
「いえ、そういうわけじゃ……汚くしててすみません、あんまり見ないでもらえると」
「お前もこういうことあるんだな」
 ふぅん、と物珍しげに見回すと宗一はずかずかと上がりこんでいく。不面目にここ数日の己を呪いながら森永も続いた。

「あの、何か飲みますか?」
 部屋に入ると森永はすぐ膝をつき、そそくさとあたりを整え出した。ドア前に立ったままの宗一の視線を避け、当たり障りのない会話のうちに室内を片付けようとする。
「冷たいものがいいですよね?コーラか麦茶かポカリ……あ、さっきオレが口付けちゃった」
「いやいい。話を」
「それよりアイスコーヒーでも買ってきましょうか。俺ついでにちょっとゴミを」
「話を聞け!!」
「いだい!!」
 森永は下を向いて重ねた雑誌を本棚に詰め込んでいたので、脳天に振り下ろされた拳を避けることもできずにうめいた。
 涙目で見上げると、宗一は意外にも怒っているふうではなかった。苛々ならしているが、それはいつものことだ。森永は今更ながら宗一がやって来た意味を考えた。ひさびさに顔を見れて嬉しかったり、小汚い様子を見られて恥ずかしく、取り繕うことで頭が一杯だったが、良く考えればわざわざ来る理由はないはずだ。もしかして許してくれるつもりじゃ、なんてことを考えてもいいのだろうか。
 森永がまたしてもぼうっと見つめていると、言い淀んでいた宗一は大きく舌打ちをして、ポケットからくしゃくしゃになった紙片を取り出した。
「お前これは一体なんなんだ」
「あ」
 ざっと延ばして突きつけられたのは答案用紙のコピーだった。自らの胸中を吐露した愛のうたに照れも混じって、森永の口元が綻ぶ。

I love the way you talk to me, and the way you have your hair.
I love the way you drive me hard.
I love it when you stare.
I love your walk, even if you leave me behind.
I love you so much it makes me happy; it even makes me rhyme.
I love it, I love the way you're always right.
I love it when you never lie.
I love it when you rarely smile, but I'd like to make you cry.
I love it when you're around, though you never call me.
But mostly I love the way you allow me to love you.
Just now, for the coming decade, surely forever.


「読んでくれたんですね」
 嬉しそうに笑う森永とは対照的に、宗一の表情は険しい。
「なんのつもりだ、こんなことしたら失格だろうが。二ヶ月の努力を無にするつもりか?面倒見てくれた福島教授にまで迷惑かけやがって」
「だって先輩と話が出来なかったから。さすがに”巽先輩大好き”とか書いたらまずいかなぁって」
「あ た り ま え だ!」
 ますます目尻を吊り上げる宗一を森永はうっとりと仰ぎ見た。怒っていても、こうやって心配してくれる。見捨てもせず、苦言も厭わない。言い方はキツイが、そこには優しさがこもっている。ああ、やっぱり好きだ。改めてそう思う。
 森永は膝立ちになって宗一ににじり寄ると、紙を掴んだままの手をそっと取った。両手で包み込み、胸に引き寄せる。宗一はぎょっとして後ろに下がろうとしたが、森永の力のほうが強かった。
「すみません、軽率でした。でも最後にどうしても気持ちを伝えたかった。俺の独断では話せないこともあるけど、俺が先輩を好きな気持ちだけは信じてほしいんです」
 森永が宗一と出会った経緯を説明しようとすると、結局黒川が巴に近づくために弄した策についても話さざるを得ない。黒川への義理ももちろんだが、律儀な宗一が相手だから尚更言えなかった。今回に限っては褒められるかもしれないが、口の軽い奴だと見下げられることは耐えられない。

「奴らの小細工の話なら巴から全部聞いた。つーかなんだ最後って」
 森永が口づけようとした指を宗一はすんでのところで引っこ抜いた。残念そうな顔をされる意味がわからない。
「先輩は俺の顔見たくないだろうし、就職浪人するなら地元に帰る方がいいかなって思ってたとこだったんで」
「就職……浪人?」
「……あ!」
 みるみる深まる眉間の皺に、森永は失言に気がついた。宗一からは院試を受けるにしろ結果が出るまで内定辞退はするなと、受験を決めた後も事あるごとに言われていたのだった。
「まさかおまえ」
「えっと、あの」
 目を泳がせた森永の胸ぐらを掴み、宗一は青筋を立てて怒鳴った。まさにこういう時のための滑り止めだったのに。
「馬鹿じゃねーのか辞退すんなっつっただろ!」
「そのほうが自分を追い込めるかなって」
 えへ、と頭を掻く森永に宗一は脱力した。確かに異なる分野で合格するだけでなく首席を取ろうと思ったら、並ならぬ努力が必要だっただろうが。
「で、実家帰るのがいやでグズグズしてたんです。だけど先輩が許してくれるんなら」
「そういや親とはなんかあんのか。前に変なこと言ってたな」
 再び手を伸ばしてきた森永を放り出し、宗一は渋面を解いて腰を下ろした。森永を許したわけではまだないが、それとこれとは話が別だ。基本的に穏やかな性格の森永が親と不仲とは意外だが、それならそれなりの事情があるのだろう。話を聞けば何か手助けしてやれることがあるかもしれない。
「んーあんまり楽しい話じゃないですけど。でもそうだなぁ、先輩には聞いて欲しいかも」
 尻餅をついて不満げに口を尖らせていた森永は、一転表情を曇らせた。眉尻を下げて切なく笑う森永に、宗一は少し後悔した。聞いてしまえば後戻りができない場合、というのがある。今がまさにそうかもしれない。



 森永が自身の性向を自覚したのは中学2年の頃だった。
 初恋は兄の親友。二歳年上の兄と同級で頻繁に家を行き来していた彼は美形で、優しく頭も良かった。森永はすぐ彼に懐いたが、二人でいるときに顔を出すと兄に邪険にされるので、兄がいないときに勉強を見てあげるよ、と囁かれたときは舞い上がるほど嬉しかった。約束通り彼は家族が留守のときに遊びに来て、勉強と、それ以外のことも森永に教えてくれたのだった。
 幸せな日々は長くは続かなかった。家族が出払った隙に彼を家に呼び込んで過ごしていたところを母親に見つかったのだ。今から思えば笑い話だ。シーツやら下着やら、留守にした日に限って息子が自分で洗濯するようなら怪しんでも仕方ない。その相手が男だと、しかも県会議員の一人息子だということは予想もしなかったに違いないが。
 議員は激怒したらしい。息子の主張が、無理やり迫られた挙句その事実を盾に関係を強要され続けたというものだったから当然だろう。森永が当時からかなり体格が良かったことも手伝い、合意の上だったという反論は容れられなかった。森永がそう思い込んでいただけで彼は怯えて抵抗できなかったのだと責められれば、それ以上何を言えるだろう。彼と直接話をすることは叶わず、家族からもまるで犯罪者のように扱われた。未成年同士のことであり、醜聞を避けたい議員の意向もあって事件にはならなかったが、人の口に戸は立てられない。周囲の冷たい拒絶は、森永が人間不信に陥るのに十分だった。

「その状態が二年近く続きました。俺はどこか遠い高校を受けたかったけど、示談の条件に俺が彼に会わないこと、親が俺の成人まで厳しく監督すること、とあって出来なかったんです」

 そして二年後、彼が補導されたのだった。年齢を偽って怪しげな店に出入りし、犯罪スレスレのことにも手を出していた。随分とタチの悪い連中と付き合っていたらしい。議員は真っ青になって火を消しにかかり彼の逮捕は免れたが、「非行・少年犯罪撲滅」を掲げていた議員には大幅なイメージダウンになったそうだ。
 しかし森永を傷つけたのはその事件自体ではなく、話を聞きに来た警官の言葉だった。息子さんにはきちんと検査を受けさせてもらったほうがいいですよ、当該少年は以前から不特定多数の男性との性交渉が常態化していて_____
 森永とのことがきっかけではなかったと、警官はフォローするつもりだったのだろう。実際、誤解で森永に辛く当たったことを両親は悔いて謝ってくれたが、遅かった。溝は決定的に深まっていたし、森永はもう感情を手放した後だった。



「俺の間違いは彼を真剣に好きになったことでした。でなければ、恨むことだって出来たかもしれない」
 身を縮めて膝を抱える森永は、いつもより幼く見えた。頼れるものもなく、必死で傷をかばう子ども。六年経っても決して癒えてはいない。
「彼の父親はとても厳しい人だったから、彼はいつもプレッシャーを抱えていて辛そうでした。反抗のつもりだったのかもしれないけど、多分、ただ寂しかったんだと思います」
 議員との約束も反故になったため、森永は大学進学を機に実家を出た。ぽっかりと穴の空いた心を意識しながら、それでも人を好きになりたいと願うのは何故だろう。笑顔を貼り付けて人から人へ、多分、森永もただ寂しかったのだ。
 
「好きです、先輩。もう会えなくなったとしても、ずっと」
 下を向いたまま呟くと、森永は額に両手を当てて膝に顔を埋めた。宗一に惹かれたのは見た目だけじゃない、その真っ直ぐな性質だった。嘘がつけなくて不器用で、乱暴で厳しくて優しい。誰にでも向けられるわけじゃない愛情が、たまらなく欲しかった。だがもう終わり。裏切られるのをひどく恐れていたくせに、自分は宗一にずっと隠し事をしていた。自業自得だ。


「アホか話を逸らすな!」
「?!」
 突然拳骨を食らって森永は夢から覚めたみたいに目を丸くした。本日二度目の強打だ。しかも殴られる場面じゃないはずなのに。
「え、今そういう雰囲気じゃなかったよね?」
「うるさい!今してんのはお前が院に行く気があんのかどうかって話だ!」
「………」
 ぽかん、と口を開けて森永は目を瞬かせた。そういう話だっただろうか。違った気がするが。
「それは、行ければ行きたいですけど……」
「よし。それなら合格認められるように俺からも教授に取りなしてやる」
 ふん、と鼻息荒く宗一は立ち上がった。踵を返し、とっとと部屋を出て行こうとする。
「待って下さい、先輩それって」
「バカなことしなけりゃお前はちゃんと首席だったんだ」
 追いすがる森永をぎりと睨みつけると、宗一は開きっぱなしだった部屋のドアに手を掛けた。そのまま勢いよく叩きつける。
「ごちゃごちゃ言わんで掃除でもしてろ!あと福島教授にちゃんと謝りに行けよ!」
 ほとんど走るように去っていった宗一の足音が聞こえなくなるまで、森永は突っ立ったままドアを見つめていた。じわじわ熱くなる顔の温度を確かめるように頰に手をやると、わぁ、と小さく呟く。そしてゆっくり膝をつき、ぱたりと床に倒れ伏した。



 福島が遅めの昼食を終えて教授室に戻ってくるともう2時だった。椅子に座って一息つくと、すぐさまノックの音が響く。どうぞ、と促せば2時に約束をした学生が静かにドアを開けて入ってきた。
「失礼します」
「やぁ巽くん、早速だけど話って何かね?」
「すみません、森永のことですが」
 そうだとは思った。この優秀だが人付き合いの苦手な学生が珍しく連れ歩いていた他学部の学生。普通はあまり研究室に部外者を入れないものだが、院での専攻変えを希望と聞いて、福島も目をつぶっていた。それに福島自身、森永を気に入ってもいたのだ。森永は今、福島が知る限り高永学園始まって以来の理由で大学院進学を逃そうとしている。
「あいつはその……悪気があったわけでもふざけたわけでもなくですね、とにかく恋愛脳って言うか……本人もあんまり書いたことを覚えてないらしくてその、問題を解き終えてホッとしたら手が勝手に書いてたみたいで」
 試験での森永の行動は謎だったが、そこは年の近い若者同士、相談なりなんなりあったのかもしれない。しかし巽はあまり人から相談を受けて助力するタイプには見えないし、わざわざ後輩の弁護に来るというのも非常に彼らしくないように、福島には映った。それに常から理路整然としている巽が、ずいぶんと要領を得ない話し方をする。巽自身に悩みでもあるのかと、少し注意してその表情を見直した福島は、いくつかの点に気がついた。

 実は森永は合格させることがほぼ確定した。やはり成績が優秀だったのと、普段の行いが良いことを所属研究室の教授と福島が口添えしたからである。後は本人が希望すれば指導のうえ不問に処すことになっていて、そうと決まれば入試担当委員の間ではその内容が話題になった。愛を訴える詩であることは明らかなのに、挙げてある”好きなところ”があまり一般受けしない内容だったからである_____巽は女性から見ても長い、と言えるほどの長髪である。森永に頻繁に手伝わせていて、いつも非常に早い速度で歩いている。歯に衣を着せない物言い、生真面目な顔つき、でなければしかめ面で福島は笑った顔を見たことがない。

「なるほど」
 福島は思わず緩んだ口元を、咳払いのふりで拳をあてがい誤魔化した。笑ってはいけないときこそ笑ってしまいたくなる福島の癖で、いつも妻には隠すのが遅いのよ笑った顔が見えてるのよと怒られるが、目線を下げていた彼には見られなかったようだ。
「なんですか?」
 歯切れ悪く延々と弁護をしていた巽は、福島の呟きに顔を上げた。発表の場でも緊張しないらしい彼が青白い頬に朱を昇らせているところなど、本当に初めて見る。
「いやいや、なんでもないよ。つまり森永くんは進学の意思があるんだね」
 意外と言えば意外だが、まだ20代半ばで既に学問へ身を投じてしまっている巽の若者らしい部分を垣間見て、福島は安心した心持ちさえした。福島は二年前の事件ももちろん知っている。自分の部下であった准教授が犯した罪で被害に遭ったことを申し訳なく思い、心を痛めていた。彼が無愛想と優秀さで周囲に壁を作るのは、あの事件によって他人を信じられなくなったからではないかと。そうだったとしてもきっともう心配はいらない。

「それなら大丈夫だよ。あとは任せておきなさい」
「……ありがとうございます」
 鷹揚に微笑む福島に、巽は釈然としない様子ながらも軽く頭を下げた。しかしお墨付きが出たことで安堵したのだろう、垂れた前髪から引き結んだ口元が柔らかく解けるのがちらりと覗いた。あまりにも珍しいこと続きで、福島はついもう少しつつきたくなってしまった。
「君もね、信頼できる人が見つかって良かったね」
「は?!いや、別に俺はそんな」
 背を向けようとしていた巽は即座に否定しようとする。その愕然とした表情が照れというより自覚のなさを露呈するようで、却って福島の笑いを誘った。
「僕も嬉しいよ、優秀な子が増えて」
「はぁ……」
 巽は落ち着かなく言葉を濁した。福島の意図がわからないのだろう。つくづく社交には向かないが、そのあたりは森永においおい鍛えて貰えばいい。学者社会でもコミュニケーション能力はなかなかに重要なのだ。
「では失礼します」
「はい、ご苦労さま」
 にこにこと手を上げて会話の終了を告げた福島に一礼すると、巽はそそくさと出て行く。ドアが閉まると、福島はデスクに向かってインボックスに積まれた書類の中から一枚のプリントを引っ張り出し、改めて目を通して微笑んだ。そうだと思って読むと森永の若い情熱が愛らしい。男同士では色々障害もあるのだろうが、時代は変わる。あと二十年もすればさほど奇異なことではなくなるかもしれない。福島はそのプリントを引き出しの奥にしまい込み、小さく咳払いをすると、パソコンを開いて論文の推敲作業に取り掛かった。





あなたを愛しく思う理由なんて、とても10では足りないけれど_____


話し方が好き、その長い髪も
こき使われるのだって喜び
見つめられれば天にも昇る心地
歩き方が好き、いつも置いてかれてしまうけど
あなたのことが好きで胸が震えるほど、どうかこの想いを聞いて
いつも正しくて、それを貫くあなたが好き
あなたは決して嘘をつかないし
滅多に見せない笑顔が好き、でも泣かせてみたいとも思ってる
そばにいてくれるのが嬉しい、電話は絶対してくれないけど
でも一番感謝したいのは、あなたを愛していられること
今この瞬間も、たとえば十年先も、きっとずっといつまでも



******


長期間お付き合いありがとうございました!


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