SS【Old Year "Happy" New Year】年頭のご挨拶を兼ねて

 新年、明けましておめでとうございますm(_ _)m


 旧年中、皆さまには大変お世話になりまして、ありがとうございました。

 暴君本編は9巻が出てファンブックが出て、冬コミにはまるでファンへのお年玉かのような本も出て。
 ブログ関連ではたくさんの方とお知り合いになることができ、初のオフ会も経験し、コラボやチャットやあちこちで遊んでいただきまして、大変充実した一年でした。拍手やコメントでもいつも励ましていただきまして、私は幸せものです。人生って素晴らしい。

 お礼を言いたい出来事は、ひとつひとつ挙げてはとても語り尽くすことができません。短いですが、続きのSSにて年初のご挨拶に代えさせていただきます。

 今年も宜しくお願いします!





Old Year "Happy" New Year



 ボーン、とどこからともなく鐘の音が響いた。
「お、始まったか」
 ソファに寄りかかって科学雑誌のページを繰っていた宗一が、軽く身を起こしてリモコンを手に取った。テレビの電源を入れると、どこかの寺院の鐘楼が大写しになっている。袈裟を着た僧侶が勢いをつけて身を引き、気合とともに腕を振るう。

 ボーン…

「始まりましたねぇ」
 キッチンで酒宴の後片付けをしていた森永も、手を止めてやかんを火にかけた。間もなく緑茶の香ばしい香りがリビングに広がる。
 番組は淡々としたナレーションに従って各地の模様を映し出していく。湯呑みを運んできた森永を認めた宗一は炬燵の中で伸ばしていた足を引っ込め、胡座にして場所を空けた。
 森永は宗一から直角の位置に座り、温かい湯呑みを両手で包み込んだ。ふぅ、と一息吹き冷まして緑茶をすする。いつの間にか宗一も雑誌から目を離し、テレビの画面を見つめている。

 ボーン……

 静かだ。ふたりとも無言で今年を振り返るニュースを眺めた。時計の針は頂点に向かってしずしずと時を進めていく。

 かなこは二学期が終わってすぐ帰省し、松田家で休みを過ごしている。巴はクリスマス休暇を利用して日本に帰ってきたが、すでに黒川とともにアメリカへ戻って行った。宗仁は正月明け数日してから帰国する予定だ。明日の朝、森永と宗一も松田家に顔を出して、新年の挨拶がてら初詣でに行く。

 ふたりきり。
 今年最後の夜は更けていく。


 カウントダウンが始まった。小さな電子音が等間隔に鳴り、画面に00:00が表示される。
『新年、あけましておめでとうございます』

 森永は炬燵から出て宗一の横に正座した。同時に宗一も身体の向きを変える。
「あけましておめでとうございます」
「ん、おめでとう」
「今年もよろしくお願いします」
「おう。よろしくな」
 きちんと向かい合って頭を下げる。大真面目に挨拶を済ませると、どちらからともなく笑いが漏れた。
「なんか改めてってのも照れますね」
「かと言って省くワケにはいかんからな」
 しかつめらしい事を言いながらも宗一の表情は柔らかい。この一年、二人にとっては激動の年だった。この穏やかな年越しが信じられないほどに。森永は何か言おうとして言葉が見つからず、ただリモコンを操作してテレビを消す宗一の横顔を見つめた。

 欲しくて欲しくて、奪い取るように手に入れたひと。一瞬と引き換えに永遠に失うことを覚悟したのに、すべて許してこうやってそばにいてくれる。
 最愛の恋人を見つめた森永は、じんわり浮かんだ涙を悟られないように目を軽く見開き、そっと手を差し出した。
「先輩」
「ん?……ああ」
 宗一も応えて腰を浮かすと、森永のほうに手を伸ばした。手が触れ合う。

「んじゃオレ寝るわ」
「え」
 よいしょ、と掛け声をかけて宗一は立ち上がった。森永の手にはリモコンがある。渡されたものと宗一の言葉が予想外すぎて、森永は手の中をじっと見た。  

「いやいやいやいや待った!」
 寝室の扉の目前で大男に縋りつかれ、宗一はぎょっとして振り解こうとした。森永は正座の姿勢から横っ飛びに宗一の腰へ飛びついて、まるで金色夜叉かという光景がリビングで繰り広げられる。
「何しやがる!」
「寝るの早すぎますよ!まだ起きてましょうよ!」
「起きててどうすんだよ。もう挨拶は終わったろ」
 宗一は森永を蹴り飛ばそうとし、ふと思いついて考えを巡らせた。そういえば”年ごもり”という風習がある。昔は大晦日から元旦にかけて寺社に籠もったものらしい。地方や家庭によって習慣は異なるものだが、それらは自分と違うからと言って馬鹿にしてはいけない。尊重されるべきものだ。
「森永家では初日の出まで起きているのが習慣なのか?」
 必死でしがみつく森永に念のため問うと、瞳を輝かせてこくこくと頷く。今まで何も言ってなかったが、森永にとっては夜明かしが常識だったからだろう。こればっかりは、初めて年越しをともに過ごす同士、その場になって初めて自分の常識が一般常識ではないと知るのは仕方がないことである。
「徹夜で無事に初詣に行けるかよ?熱田神宮ナメてんじゃねえぞ……」
 ぶつぶつ言いながらコタツに戻る宗一を、森永は大喜びで落ち着けようとした。寒くないですか、上着を持ってきましょうか、お屠蘇にしましょうか、コーヒーのほうがいいですか、お腹は空きませんか。結局コーヒーだけ用意させることにして、宗一は煙草に火をつけると上機嫌でキッチンに立つ森永を眇めた目で見やった。

 炬燵は12月に入り、少ししてから設置したものだ。こんなものは不要だと思っていたが、森永のたっての願いで購入した。宗一もあったらあったでつい入ってしまう心地よさで文句はないのだが。
 最近森永は、金遣いが荒いというほどではないものの、調理器具やら食器やらと買い物が増えた。宗一と同じであまり物を持たない主義かと思っていたが少し違うようで、「前から欲しいと思っていた」と言うことが多い。物を買うのを控えていた理由はふたつあると思う。就職が決まってから、宗一がそばにいて欲しいと言ってから、急激に増えたからだ。収入の目算が立ったこと、今の暮らしが続くこと。これらが森永の財布のひもを緩ませている。それは宗一にとって歓迎することだ、と思う。森永がいつだって逃げ出せる準備をしておくのを、やめたということなのだから。

「朝までとは言いませんから、もう少しだけ付き合ってください。ね?」
 持ってきたマグカップをふたつ炬燵の天板に乗せると、森永は炬燵の足を持ってテレビのほうに少し引っ張った。腹と布団の間に出来た隙間に顔をしかめ、暖気ににじり寄りながら宗一が不審げに睨むと、森永はいたずらっぽく笑って、宗一の背後に滑り込んだ。
「わっなんだよ!」
 ソファと宗一の間に収まった森永は、身体を強張らせた宗一を包み込むように抱き込み、髪に頬ずりをした。耳を掠めた吐息はいかにも満足げで、宗一は拒むことができなくなってしまう。

「俺こんな風に誰かとのんびり年越すのなんて、7年……いや8年振り。家に居づらくなってからは年越しパーティとかでいっつもフラフラしてたし、こっち来てからは一人だったから」
 小さな声で、独白のような。動悸と体温が上がって宗一は狼狽えた。背中が暖かい。平静を装ってマグカップの持ち手を掴んだが、飲む気はしなくてまた手を離した。
「……正月も帰ったことないのか?」
「ないですね。向こうも帰って来いなんて言わないし」
「ウチに来りゃ良かったのに」
 咄嗟に出た、これは宗一のまごうかたなき本音だ。寒々しい古いアパートで独りきり、年を越す森永を想像しただけで腹が立つ。こいつの家族は何をしていた。俺は……何をしていた。
「先輩俺の予定なんか聞いたことなかったでしょ」
 顔は見えないが、森永の声は笑い含みで恨みがましい様子はない。宗一はそうだな、と口の中で小さく返した。
「でも俺いっつも先輩のこと考えてました。休み明けまで会えないけど、今頃何してるかなーって。年越し蕎麦食べたかなとか、おせち食べたかなとかお雑煮食べたかなとか」
「食い物のことばっかだな」
「ふふ。風邪引いてないかなとか、初詣で行くのかなとか。いつか一緒に行けたりしないかなって。だから……先輩のこと考えてたから、寂しくなんてなかったんですよ、全然。だけど今年は……嬉しくて涙出そう」
 涙出そう、どころじゃない。森永の声はとっくに震えている。鼻をすする音も、瞬きで睫毛を払う音まで聞こえる気がする。なのにこんな風に後ろから抱えられては、涙を拭ってやることすら出来ない。宗一は森永の頬を伝う雫を想像して、もぞと腕を動かした。
「アホか、お前はいちいち大袈裟なんだよ」
「……うん」
 それっきり、会話は途絶えた。静かな部屋に沈黙が降り積もる。

「明けましておめでとう、先輩」
「……おめでとう」
「今年もよろしく…って、来年も再来年もずっとずっと言わせてね……」
 森永の声はもう涙まじりではない。この柔らかな、喜びと期待をはらんだ声は悪くないと宗一は思う。
「馬鹿、そんなの。今までだって毎年言ってんだろ」
「ありがとう、先輩。オレ幸せです。先輩も幸せにしたいのに、どうすればいいんだろう」
 森永の腕に力が籠もる。宗一が前に垂らして身体ごと抱きしめられていた腕を捻り、森永の手首を掴んだ。
「お前はっ!ヘラヘラ嬉しそうに笑ってりゃ、それでいんだよ!」
 盛大な初舌打ちをした宗一は、それでもその場から動こうとはしなかった。素直じゃない彼の感情をあっさり表してしまう耳はほんのりと赤い。
 宗一の頭頂部に頬を預けるように乗せて、目を閉じた森永は深々と息を吸い込んだ。あまりに胸がいっぱいで、何と言えばこの気持ちを伝えることができるのかわからないから。
 抱きしめる。強く、強く。
 そして結局いつもと同じ言葉になる。
 _____大好き



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