PSS【歌う鳥はいつも籠の中 5】

第5話です。


失笑されそうな気配ですが、また風邪を引いていました。しかもこの1ヶ月に二回。なんかもう・・・はぁ(;´д`)=3
自分の抵抗力のなさにがっかりします。家族中で順繰りに引くのもアレなんですけど。そして最近風邪→咳喘息の流れが強いです。皆さんもお気をつけて・・・って言うのも変です。普通の人はこんなに風邪引かない。

そんなこんなで遅くなってしまってすみません( ;´Д`)2月は1回しか更新してなかったorz
そんな間にも覗きに来て下さった方々ありがとうございますm(_ _)m

これでやっとブログ巡りができる・・・しばらく書く方優先で控えてました。不義理をしております反省・・・




ご訪問・拍手・コメントありがとうございます!






 数日後ソウが病人を診に行って帰ってくると、家の中からきゃっきゃとはしゃぐ声が聞こえてきた。カナの声だ。相槌を打つような男の声もする。自分の留守中に誰かが訪ねてくること自体は稀にあることだが、若い娘が一人で留守居する家に上がりこむなど言語道断だ。許すまじ、と拳を握りしめたソウは足音を忍ばせて戸口まで近づくと、一気に吊るしてある筵を払い上げた。

 バサ!と莚の翻る音と光に瞬いたのは、美しい色合いの裳を胸に当て裳裾を広げたカナと、なんとテツだった。身体を捻って衣装映えを試すカナの前に膝立ちし、腕に掛けた数本の飾り帯を当ててやっている。
「兄様!見てこれ綺麗でしょう!」
 兄を認めたカナのこぼれるような笑みを見て、ソウは苦々しく舌打ちした。だから来るなと言っておいたのに。下手に贅沢を知ることは妹の為にならない。
「んなもんいつ着るんだよ。そこら歩くだけで引っ掛けちまう」
 だがカナが美しい衣にひとかたならぬ喜びを見せたことが、ソウの胃の底に重い塊を落とした。先日のあの男との会話が蘇ったからだった。怒鳴るつもりだったのに、愚痴めいた苦言しか出ない。
「でもすごく良く似合いますよ。祭りのときにでも着てもらえば」
 踊るように回ってみせるカナに目を細める呑気な男に悪気がないのは分かる。だが分不相応なものに心を奪われると、身を滅ぼすことだってあるのだ。富を持つ者に、持たざる者のあまりに些細な暮らしが解るとは思えなかった。

 テツは前回に比べればずいぶん質素な服を着ていた。さすがに周囲から浮いているのは自分のほうだと心得ているのだろう。下ろした髪を一本にまとめ、どこで手に入れたのか袖裾の短い上下に皮の足裏当てを付けている。初めて会った時にも帯びていた見事な細工の太刀を腰に吊るしている他は装飾品のひとつもなく、それに剣は飾りなどではない。
 それでもやはり、そこらの若者とは雰囲気が異なる。誰かとの育ちの違いを意識したことなどなかったのに、立ち居振る舞いから差が出るものだと、ソウはテツと出会ってから初めて知った。テツは動作が大きくゆったりとしている一方で、端々に機敏な動きを見せた。隆々というわけではない若い小枝のように良くしなる筋肉は、農民達とはまた違う鍛え方の、武人のそれなのかもしれなかった。

 テツの斜め後ろに立ってカナを見るふりで、ソウは目の端で奇妙な顔見知りの後ろ姿を観察した。足指をついて膝立ちしているので、発達したふくらはぎが力強い隆起を見せている。重心の安定した腰が幅の広い背中を支え、やや撫で肩ぎみの肩から伸びる長い腕は、滑らかに動いて先日の怪我を感じさせない。視線を感じたのか振り返ったテツは頬を赤らめて微笑むと、荷の中から折り畳んだ布地を取り出し、両手で差し出してきた。
「ソウさんのもあるんですけど」
「俺はいらない」
 すげない答えを予想していたかのように、テツはさほど残念そうな顔もせず布をしまいこんだ。それじゃあ、と今度は布包みを取り出して広げる。
「こんなのはどうですか?呪力が高まるものとか、禍を避けられるものとか……」
 テツがひとつひとつ指差してみせる勾玉やそれらを繋いだ首飾りを一通り眺めると、しかしソウは鼻を鳴らして腰を下ろした。
「ふん。つかまされたな」
 男が首を傾げて目をぱちぱちさせるのが愉快で、立てた片膝に頬杖をついた姿勢でソウはにやりと笑う。
「見た目はいいかもしらんがただの石だ。なんの力もない」
「………」
 テツは目をまんまるにして固まっている。憤慨するか気落ちするかだろうと思った反応が予想外で、ソウは怪訝に思ってその顔を覗き込んだ。もしかしたら真贋を見分けられることに驚いたのかもしれない。
「呪術師だと言ったろ?」
「!!」
 テツは夢から覚めたように身震いすると、一気に赤面した。急に動揺して後ろに下がり、あたふたと広げたものを乱雑に荷袋へ詰め込む。
「えっとその……その、そんなことまで分かるんですね。すごいなあ」
 誤魔化し笑いで頭を掻くと、テツは勢いよく立ち上がった。
「でっ、出直してきますねっ」
「おい」
 呼び止める暇もあらばこそ、テツは戸口の横木に頭をぶつけながら家を飛び出していった。
「なんだ?あいつ……」
 まったくもって意味がわからない。それにソウは来なくていいし礼も要らないと言っているのに、テツはさっぱり聞く耳を持っていないようだ。ソウは変なやつ、と呟いて妹を振り返った。同意を求めたつもりだったが、裳を丁寧に畳んで布に包んでいた妹は、呆れた表情で兄を見返した。
「兄様ってにぶいのね……」
「なんの話だ」
「わからないならいいけど……」
 その後繰り返しソウが追求しても、カナは発言の意図を教えてはくれなかった。



 再びやって来たとき、テツは燻製にした肉や魚、木の実などのほか、兄妹が見たこともないような珍しい食物を抱えてきて二人を喜ばせた。やっと受け取ってもらえた、と顔を綻ばせたテツを見て、これで会うのも最後だろうとソウは酒まで振舞ってやった。テツも名残惜しいなぁ、などと言って薄闇が落ちるまで長居していったというのに、なぜだろう。
 ソウは豚の脂と粉にした薬草を練って軟膏を作りながら、背後の気配を窺った。

 当たり前のようにまた顔を見せたテツは、こまごまと土産を携えてきた。迎えたカナも驚きもせず歓待して、それでソウは腑に落ちた、と思ったのだ。
 だが先ほどカナは水汲みに出掛けてしまった_____テツが手伝おうかと申し出るのも断って。残されたテツはカナと二人きりになる機会を逃して落胆するどころか、興味津々の様子でソウの作業を見つめている。まったくもって意味がわからない。

 なんなんだこいつ。もう何度目かしれない疑問を胸中で呟き、ソウは軽く仰け反らせた首を小刻みに振って、胸に落ちた髪を肩の向こうに払い落とそうとした。先ほどから髪が落ちてきて煩わしい。薬草を扱う手は決して不器用ではないのに、それ以外のこととなると途端に動きの鈍くなる指先のせいかもしれないし、細くつるつると滑って纏めにくい髪質のせいかもしれない。とにかくソウは髪を縛るのが苦手なのだった。しっかり括ったつもりでも、気がつけば今のように解けてくる。しかもこんな手を使えない時となれば誰かを絞め殺したいくらいに苛立ってくる。いっそ短く切ってしまいたいが、呪術師は髪の長いものとされていて_____それは力は髪に宿ると言われているからでソウ自身は甚だ疑わしいと考えているものの_____切るのは躊躇われる。
 また一束が落ちてきてソウが黄泉の国まで響きそうな舌打ちを響かせると、おずおずとテツが身を乗り出してきた。
「あの……良かったら結び直しましょうか。紐が解けちゃっていて……」
 頼む、と返すとソウは手を止めて肩の力を抜いた。いつの間にかすっかり身体が強張っている。これでは仕上がりまで固くなってしまう。

 テツはすでに用を成していない紐をつまみ上げ、ソウの顔の周りに垂れた薄茶の長い髪にそっと手を伸ばした。後ろから目隠しをするように腕を回し、顎の線に沿って髪を掬い上げる。指先が微かに触れたとき、ソウの体がびくりと小さく揺れた。
「どうしました?」
 集めた髪を片手にまとめたテツが耳元で囁く。ソウは反射的に声から逃げようとし、だが髪を掴まれているため引っ張られた頭皮の痛みに我に返った。どうしたものか、我ながら随分な過剰反応である。
「や、なんかくすぐったかっただけだ」
「ふうん?」
 居心地悪く身じろぎするソウに構わず、テツは軽くまとめた髪を整えるため、頭に指を差し入れた。指先が頭皮に触れると、また薄い肩が小さく跳ねる。
「違うな。くすぐったいっていうか、なんかちょっとぞわっと」
 なんだろう、とソウは怪訝そうに首を傾げる。テツが背後でにやりと笑ったのにはもちろん気がつかなかった。
「へぇ……」
 相槌を打ったきりそれ以上追求はせず、テツは薄茶の髪を片手に束ねる。頭皮に触れないように、器用に紐を巻いた。



 カサカサ、踏みしめた足元から聞こえる乾いた音は秋の先触れだ。やがて枯れ葉が降り積もれば、朽ちたそれから湿り気を帯びて、地面は柔らかな敷物へと変化する。テツは軽い音と感触を楽しみながらブラブラと森を歩いた。紅葉と言うにはまだ早い。だが確実に木々は色味を帯び、実を結び始めている。
 すっかり慣れた道筋を通って兄妹の家に行ったらカナが一人で留守番をしていた。裏の森に薬効のある木の実を集めに行ったと教えられ、ソウを探しに戸外へ足を向けた。

 テツはソウが考えているとおり豪族の生まれで、将来一族を率いる人物にと鍛えられてきた。体術、武術、馬術、政治、蓄財、駆け引き、人の上に立つということ____こなすのは容易だった。身体を動かすことは好きだったし、人好きする容貌で微笑めば、得られないものなどない。求められるままに自分を作り上げ、別に不満もなかった。いや不満がなかったのとは違う。ただ、情熱を知らなかっただけだ。
 早駆けで野山を巡ることはあっても、景色を愛でることはなかった。木陰で休むことはあっても、足元に注意を払うことなどなかった。蹴散らしてきた野辺に、可憐な花が咲いていることも、有用な薬草が育っていることも知らなかった。知ってしまえば世界は見違えるように変わった。鮮やかで、美しい世界。その中心にあの人がいる。

 木立の向こうにすらりとした横姿が見えた。珍しく髪を下ろしたままだ。
 テツほどではないとは言え頭抜けた長身であるのに、巨漢だの図体がでかいだのという表現はどうしても当たらない。粗末な貫頭衣に包まれた身体はしなやかで優美、野山を軽やかに跳ね躍る鹿のようだ。陽に透けて時折り黄金色に輝く櫨染の髪は、風に靡いてさらさらと音を立てる。漲る生命力にはち切れんばかりの乳色の肌に夏の名残はもうなく、薄い唇の朱が控えめにその顔を彩る。
 もともと女たちがこぞってなりたがるような、脂身のように柔らかくて白い肌や香油で艶を出して結い上げた髪を佳いとテツは思っていなかった。砕いた貝やら色土を塗りつけて装い、富と権力を得ることに終始する着飾った男女を醜いとすら感じていた。
 まっすぐに自分の生き方を貫き、飾らないその姿はこの上なく美しい。こんな風に自然体で生きられたらどんなに良いだろう。人を傷つけることなく、後ろ暗いことなど何ひとつもなく。

 ソウは左脇に籠を抱え、右手で枝葉を探っては実を摘み取っていた。落ちたものに用はないらしい、熟れる前の青い実に薬効があるのだろう。少し離れた木の陰からテツが見守っていると、さらに片手でいくつか取って籠に入れ、手を止めた。上ばかり見上げて疲れるのか、俯いて首筋を軽く揉んだあと長いため息をついたが、それは草臥れただけにしてはひどく物憂げなものだった。目線を落とし、髪を耳にかける仕草はまるで恋煩っているかのよう。切れ長の眼に漂う愁いに、テツの心臓は跳ねた。誰のことを想ってあんな表情をしているのか。風が梢をざわざわと揺らす。テツの胸の内をそのまま現したように、強く、騒めく。

「ソウさん」
 突然掛けられた声に驚いたソウは小さく声を上げると抱えた籠を取り落としそうになり、慌てて掴み直した。拍子にパラパラと木の実が籠からこぼれ落ちる。体勢を立て直して振り返ると、ぎりと歯をくいしばってテツを睨みつけた。眉間の皺がいつもの数倍は深い。
「あぁん?」
 凄んでみせられても、しかし頰が赤くては臆する理由がない。慌てふためくさまを見られた気恥ずかしさが立っているだけだろう。声だけで自分だと気付いて貰えたのも嬉しく、テツは微笑んだ。
「話があるんです」
にこやかに、だが真面目な顔付きで告げるテツに気勢を削がれて、ソウは口元の力を緩めて唇をへの字に曲げた。寄せた眉根はそのままだ。
「ちょうどいい、俺も話がある」

 指先の仕草で招かれたテツが木陰から出てくるのを待ち、ソウはテツに背を向けて転がり落ちた木の実に目をやった。つと脚を伸ばしたまま身体を曲げ、拾い上げる。テツは歩きながら、じわりと腰を落とした。
 ソウは身体を折ったままで拾った木の実を籠に入れ、更に先の方まで手を伸ばしている。幾つか木の根のくぼみにはまり込んだらしい。片足を一歩踏み出して体を支え、かさかさと積もった木の葉の間を探っている。
 織りの粗い生地は固く、身体の動きに合わせて裾がすっかり持ち上がってしまっている。もともと膝丈までしかないものだから、腿の裏側は中ほどまで露わになり、尻へと続くなだらかな曲線を惜しげもなく晒していた。
 テツは何かを拾う素振りをして更に腰を屈め、何気なさを装ってソウを見上げた。日に焼けることのない部分は透き通るほど白く、秘めたものを覗き見るような緊張感を漂わせている。テツがいつも思っていたことだが、彼の腰はとても細く引き締まっており、胴囲の布の余りかたが甚だしい。下から見上げると膝の裏から伸びやかに浮き出る筋がわずかに膨らみを帯びる辺りまで目線が届きそうで、テツは自然と湧き出た唾液を飲み込んだ。

「おい、テツよ」
「は、はい!」
 そのままの姿勢から呼びかけられ、テツは飛び上がった。生唾に代わって冷や汗が吹き出す。衣服の中を覗こうとする輩を許すような人物だっただろうか_____答えは、否。立ち上がるのに間に合わず、地面に膝をついたままうろうろと目線を泳がせる。
 だがソウは覗きを咎めたのではないらしかった。ゆっくり向き直ると木の幹に寄りかかり、籠のなかの木の実を弄ぶ。言葉を探して視線を彷徨わせ、ようよう口を開く。

「おまえの言いたいことは分かっている」
 静かに告げられた言葉に、テツは続いてカッと体温が上がるのを感じた。まったく忙しいことだが、それを省みる余裕はなかった。こんな突然に宣告されるとは思ってもみなかったのだ。心の準備ができていない_____応じてくれるなら、必要ないが。

「カナは俺が言うのもなんだが、良くできた娘だ」
「…………はぁ」
 突然カナの名が出たことに戸惑い、テツは間が抜けた返事しかできなかった。あまりに想定外で、一瞬頭の中が真っ白になる。
「おまえが何度も通って来るのもまあ、わかる。だがおまえは豪族だろう。妻を何人も養う財力があることは疑わんが、俺はカナを大勢のひとりにはしたくないんだ。手をついてまで望んでくれるのは兄としても嬉しいしな。カナだけと決めるのであれば俺としても……」
「ちょ…っ、ちょっと待って!」
 ぽかんと口を開けていたテツは青ざめて立ち上がった。不承ぶしょう、といった顔で続けるソウに詰め寄る。
「あんたもしかして俺がカナちゃん目当てに通ってると思ってたの……?」

 ソウにしてみれば自明のことだ。テツは毎度贈り物を携え、来た時カナがいなければ必ず居場所を確認する。何度か理に合わない言動もあったが、変な奴だから一般常識では量れない思考回路を持っているのだろう。そのあたり不安も残るが、いい奴なのも確かだ。
 色々考えた末、ソウは心を決めたのだった。テツになら、大事な妹をやっても良い。
「違うのか」
 今度はソウが呆ける番だった。違うと言うなら、これまでの行動は何だったのだ。今だってまさに妹さんを下さい、と言い出すところに見えたのに。

「……すごく、傷つきました」
 ソウの両肩に手を置き項垂れたテツは眉尻を下げ、すん、と鼻を鳴らす。
「そりゃはっきり好きだと言ったわけじゃないけど、あんまりだ」
 先ほどの思い悩む様子は単に妹を手放すことに対する感傷だったのか、とテツは嘆息した。もしかして自分のことを考えていてくれるのじゃないかと、少しは期待したのに。
「俺はね。ソウさん、あなたを口説きに来てるんですよ」
「…………」

 ソウがその言葉の意味を呑み込むまでに、少々の時間を要した。理解した途端、切れ長の眼が見たこともないほど見開かれる。
「俺は男だぞ!」
 ひっくり返った声が出て、ソウは自分の動揺加減に驚いた。籠を落としたのにも、木の皮で編んだ籠の底が足を掻いて、それでやっと気付いたほどだ。
「それが何か?別に珍しいことじゃないでしょ」
 どさくさに紛れて顔が近い。離れたいが、背後は木の幹に塞がれ、肩から滑り降りたテツの手が二の腕を抑えている。身動きができず、ソウの唇がひくりと震えた。
「ゆっくり俺のことを知ってもらえたらと思ってたけど、誤解されるのはごめんだ。これからはそのつもりでいて下さい」
 ソウは更に迫ってくる顔を押しとどめようとしたが、二の腕を掴まれていては肘を曲げて相手の胸に手のひらを突くことくらいしかできず、獲物を見つけた肉食獣のように光を閃かせる黒い瞳をただ見つめるほかない。テツは目を細めると首を伸ばした。

「あなたが欲しい」

 耳朶に吹き込むように低い声で囁かれ、ソウは呆然とするしかなかった。それを見てふっと笑うと、テツは身を離した。力を抜き、ひょいと屈み込むと落ちた籠を取り上げ、散らばった青い実を拾い集める。
「でもまあ、カナちゃんと娶せてもいいくらいには俺のこと気に入ってくれたってことですよね」
 ソウは厚かましくも言い放つ男に反論しようとしたが、今しがた似たようなことを考えていたせいで言うべきことが思いつかない。口を開いたり閉じたりしているうちに、あらかた拾い終えたテツが立ち上がってしまう。
「ちなみに」
 テツは木の幹に背を預けたままのソウに軽い調子で籠を手渡すと、にこりと笑って止めを刺した。
「カナちゃんは俺のこと応援してくれてますからね」

「どうなってんだ……」
 手を振って去るテツの後ろ姿を見送り、ソウはポツリと呟いた。なぜ拒否できなかったのだろう、殴るでも蹴るでもすれば良かったのに。驚きのあまり声も出なかった。いや驚き_____だけじゃない。テツが突然出した威圧感に圧倒されたのだ。情けなくも、足が震えた。黒々と深い色の瞳にひたと見つめられ、目を逸らすこともできずに。
 長く息を吐き出したソウは木の根元に座り込み、頭を抱えた。



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