SS【デビルズシザーズ】

続き物の続きじゃなくて申し訳ないのですが、本日は短文を。折りしも良い兄さんディとのことで\(^o^)/←間に合わなかったorz

このお話は実は、カウンター4000番でのリクエストでした。2件ありまして、1件は白雪姫パロを書かせていただいております。こちらは色々事情があって保留になっていたのですが、今回公開させていただくことになりました。書いたのが約1年半前ですので、少々手入れはしておりますが。
リク内容は、「2巻で森永くんが兄さんの髪を切っていたが、あれが逆ならどうなるか」です。

では短いですが、どうぞ(^ ^)
リク主さま、遅くなってしまいましたが、リクエストありがとうございました!



ご訪問・拍手・コメントありがとうございます!







デビルズシザーズ



「森永、分析の結果比較したか?」
「はい、これですけど同定率が68パーで……」
「微妙だな」
 今日も福島研は慌ただしい。来週開催される秋季定例学会のため、大半の学生が駆け回っている。宗一と森永も発表があるため、例に漏れず目の下に隈を作っていた。

「だが異物だとは思えん……反応か分離にミスか?」
 グラフのピークを素早くチェックする宗一の指先を、森永は眠気に目をしばしばさせながら追った。既に提出してある要旨に沿った内容まではまとめあげなければ。二人はアプローチは異なれどテーマは同じなので、こういう時は補い合うことができる。

「フォローが必要だな。濃度と反応時間を変えて5パターンずつ追加だ」
「えっ今からですか?!」
 学会発表は論文として精査されるわけでもなし、多少根拠が弱かろうと”今後詳細を調査する”とか言えばとりあえず済むわけだが、完璧主義の宗一には通用しない。宗一の指導はそこらへんの教授よりずっと厳しいので、おかげさまで森永の発表は内容が濃いが、つぎ込む労力も並ではない。

「培地はあるんだから、今日準備して明日午前中に仕掛ければギリギリ間に合うだろ」
「午前中って……俺内定式あるから髪切ってくるって言いましたよね」
 間の悪いことに明後日はS製薬で内定式がある。午前中いっぱい潰れるので正直サボりたいが、そうも言ってられない。
「午後は俺のほうのが電顕予約入れてあるし、もう他に空き時間ないんですよ」

 森永はもう一ヶ月近く前から髪を切りに行こうとしていたが、結局時間が取れずに日々が過ぎていた。このままでは埒が明かないと予約を取ったものの、その予約もすでに二回変更している。人生最長まで伸びた髪は襟に当たって跳ね、前髪は下を向くと視界を遮り、ただでさえ急いて尖っている神経を苛立たせた。何度もかき上げるのを見かねた女子が貸してくれたクリップで前髪をねじって留め作業を進めているが、学会もあることだしそれなりにこざっぱりして式に臨みたいと考えるのも当然だろう。

「今日はもう終われるし、今から行けばいいじゃねーか」
「今からってもう9時なんですけど……」
「じゃあ切らなくてもいいだろが。そのまま行けよ」
「こんなボサボサ頭で浜田さんに恥かかせる訳にはいきませんし」
 森永は最悪このままでも、とは思っていた。しかし使える手があると宗一はまた無理をしてしまう。少なくともサンプルの追加は諦めて、少し休んでほしかった。
「じゃあ俺が切ってやる」
「え?」
 宗一は試薬を滴下した試験管を軽く振り、色の変化を見ながら軽い調子だ。
「巴やかなこの髪切ってたこともあるんだぞ」
「え……でも」
 それはきっとせいぜい小学生までだろう。実験器具を扱う宗一の手は確かに器用だが、髪型を整えるセンスが果たしてあるのかどうか。


「動くなよ」
「はーい」
 はさみが軽い音をたてながら後頭部を移動していく。細い指が時々頭皮に触れながら、髪をすくい上げる。その指先の感触は意外と優しい。貴重なサンプルに触れる時のように、森永のやや硬い黒髪を愛しげに梳く。
「こんなもんかな」
 宗一が背を向けて座っている森永から少し離れ、顎に手を当てて出来映えをチェックした。森永が首だけ回して真後ろの宗一を視界に入れると、白衣の袖をまくった恋人はしかめっ面をして向こうへ追いやるような仕草で合図をしてきた。前を向け、と人差し指で前方を指し示す。
「かっこよくなりました?」
 前に向き直った森永が冗談めかして尋ねると、近づいて横から耳の上あたりにはさみを入れていた宗一は頬を染めてぼそりと呟いた。
「おまえはどんな髪型でもかっこいーよ……ほら、くだらんこと言ってねーで前髪!目ぇ瞑れ!」
 照れ隠しに怒鳴る宗一が可愛らしく、森永はクスクス笑って目を閉じた。まぶたの裏で、髪をつまんでは離す手の影がちらちらと踊る。鼻に落ちた髪を払う指がふいに唇をなぞり、ゆっくりと顔の近づく気配と柔らかい感触が_____


「おね、おねがいします!」
 こみ上げるにやにや笑いを抑えられず両手で口元を隠した森永を、宗一は呆れ顔で見やった。また何かくだらないことを考えているに決まっている。
「ほらとっとと座れ」
 そばにあったパイプ椅子を引き寄せ、森永を促して宗一ははさみを手に取った。切れ味を確認するようにシャキシャキと数回刃を合わせた、その音に森永はギクリと身を強張らせる。

 研究室とはさみとくれば、蘇る恐ろしい記憶がある。はさみを尻に突き立てる悪魔_____髪を振り乱し、復讐の悦びに薄ら笑いを浮かべる細面は怒りで蒼ざめて_____大丈夫だ、殺されるなら俺はとっくに殺られてる。
 胸に手を当てて深呼吸をし、椅子に座った森永は毛が入りにくいように白衣のボタンを全部留め、襟を立てた。


「動くなよ」
「はーい」
 はさみを手に取った宗一は珍しく楽しげだった。森永が寄越した櫛で軽く後ろ髪を整え、さりげなさを装って首筋から耳の後ろに指を滑らせる。ちょっとした好奇心だった。

 単に”くすぐったいから触られるのが嫌”だった場所は、この後輩によって”弱点”に変えられた。意図を持った指はそうやって身体中に作られた弱点を的確に辿り、宗一の抵抗を意味のないものへと変えてしまう。たまには意趣返しがしたくなるのも当然、この男はどんな反応をするものか。

 首筋に触れるか触れないかのところで髪をすくい上げる。宗一ならもう堪らずに身体をよじらせているだろうに。
 森永はぴくりとも動かなかった。
「…………」
 つまらない。宗一は気を削がれてイラついた手ではさみを入れた。しかしもう少し慎重にするべきだっただろう。ジャキ、と小気味良い響きで頭部から分断された毛束は、思いの外長かった。
 しまった、と宗一は内心慌てたものの覆水は盆に帰らない。途中で止めるわけにもいかず、勢いのまま毛束の長さを合わせていく。


 思い切りの良かったはさみの音が徐々に間遠になり、手が止まったとき、森永はやはりと思った。覚悟はしていた。あとは被害がどの程度かだ。短髪か、スポーツ刈りか、最悪坊主なのか。
「……あー、森永?明日俺早く出て、手伝いも誰か山口にでも頼むから。その……予約の床屋行って来い、な?」
 ちょっと、と呟いて森永は白衣に落ちた髪を払い立ち上がった。白衣のポケットから小さな折りたたみ式の手鏡を取り出し、実験室の隅に向かう。山口がいつも机の引き出しに入れているのを拝借したものだ。

 器具の洗浄にも使う壁付けの小さな洗面ボウルの上には、鏡が設置されている。森永は鏡に背を向けて立つと手鏡をかざし、合わせ鏡の要領で後頭部を確認した。ぱっつんと切られた後ろ髪をつまんで長さを見る。スポーツ刈りより長めくらいはいけるだろうか。もとが随分伸びていたのが幸いだった。鏡の端には困ったような顔をした宗一が映り込んでいる。
「センパイ」
 森永は手鏡に視線を向けたまま声をかけた。ギクリと身を引いた宗一に微笑みかける。森永にとってこれはチャンスだ。宗一が罪悪感を持っているならなおさら。

「お、怒ってるのかよ」
「いいえ、まさか」

 森永は人の良さげな顔立ちのくせに、非常に獰猛な顔付きをすることがあった。目が、笑っていない。そういうとき宗一はたいてい痛い目に会うのだった。主に、夜。ベッドの上で。

「これ、貸しにしておきますから」
「怒ってんじゃねーかよ!」
 好奇心は猫をも殺すと言う。森永に借りを作ると何を要求されるかわかったもんじゃない。白衣を脱ぐざんばら髪の後輩を見つめ、宗一は密かに戦慄した。




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短髪の森永くん、かっこいいと思います。兄さんはドキッとかしないんだろうけどさ(´、ゝ`) フッ


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