SS【そして私のクリスマス】

メリークリスマス!
皆さまいかがお過ごしでしょうか。

いや、分かってます。まだガッシュ1月号の余韻から抜けられなかったり、冬コミの準備で忙しかったりするんですよね。解ります、判ります。
……………………ハァ。




今日はクリスマスイブですね!メリークリスマス!
本日は第三者目線でのSSをアップさせていただきます。一昨年のクリスマスネタユ・ビ・ワ狂想曲のそこはかとない続きとなります。
続きというか、SSは何となく時系列を意識してるので、1年後の設定になってるだけなのですが。
一度そのあたりも整理して並べてみたいなーなんて思いながら。



それではみなさま、良いクリスマスを!
♪(*^^)o∀*∀o(^^*)♪


ご訪問・拍手・コメントありがとうございます!


※パソコンを開く暇がなく、段落付けが間に合いませんでした…来週こっそり直しにきますです




そして私のクリスマス



 いよいよだわ。

 手首の細さを強調する華奢なデザインの腕時計をちらと見て、私は背筋を伸ばした。ナチュラル風メイクバッチリ。オーソドックスだけど形のキレイなオフホワイトのトレンチコート。裾から覗く紺のタイトスカートは、バックのスリットがちょっと大胆なもの。ラメの入ったストッキングに足元はヒール9cmのパンプス。ここだけの話、ストッキングはガーター使用に勝負下着までバッチリな、要するに私は今いつでもオッケーな状態なの。もうすぐ森永君がやってくる。今日は、キメるわ。


 森永君は会社の同僚で、2コ年下の後輩。彼は背の高いイケメンで名大の院卒、自分も所属していて言うのもなんだけど一流企業に入社した、古い言い方をすれば”三高”ってやつ。私はこの4月に名古屋支社に異動になって初めて彼の存在を知ったのだけど、入社当時からその身長と甘いマスク、親しみのある人柄で周囲をざわめかせ、だけど誰にも落とせないことで有名だったらしい。
 そんな彼もいまは4年目、いつの間にか彼女が出来たらしく、私が知り合ったときにはもう左手の薬指に指輪をしていた。だけど彼はプライベートのことをあまり話さないので、どうやら社外の人のようであるらしいということくらいしか皆知らなかった。
 そしたら先日、彼と親しい浜田さんが皆には内緒だと、こっそり教えてくれた。あれは単なる女除けで、ペアリングじゃないのだとか。本人が去年言ってたっていうから信憑性が高い。そりゃそうよね、森永君モテるもん。だけどペアリングはしたいんだって嘆いてる、てとこまで聞いて私は確信した。
 森永君は、私に好意を持っている。


 理由は二つある。
 ひとつは、彼が以前甘ったるい雰囲気の新人女子に好みのタイプを聞かれているのを小耳に挟んだこと。真後ろのデスクで交わされる会話はとても就業時間内にするようなものではなく普段ならイライラしてしまうところだけど、この時ばかりは聞こえていないフリで仕事を続けつつ、耳を澄ませた。

 年上か年下かなら、年上。髪の長い細身の体型が好き。頭のいい人が良い。真面目で厳しいくらいだけど、実は優しかったりすると、そのギャップに惹かれます。

 その子はいかにも男受けのするゆるふわボブで、こういう話題で「実はきみのような子が好みで」なんて言われるのに慣れていたんだろう。期待が外れて、細いのに結構ボリュームのある胸を強調するポーズのまま、あからさまに残念そうにしていた。

 年上、一致。髪長い、胸のあたりまであるのは一致?細身……も一致。少なくとも健康診断では痩せ型と分類されてるし。自分で言うのもなんだけど頭は悪くない、一致。真面目は良く人から言われるし、自分でもそう思ってる。厳しいつもりはないけど、仕事を頑張ってきたのが裏目に出て、男勝りに見られがち。美人だと言われるし、学生の頃は結構モテたんだけど最近は全然……。多分敬遠されてるんだろうな、可愛くないタイプに見えるんだろうし。仕事そこそこで手頃な男を掴まえて寿退社や負荷の低い仕事へ移っていく後輩たちを、本音では羨ましく思っているくらい。
 ちょっと逸れたけど、それはともかく 、あれは私に聞こえるように言ってたんだと思うわけ。でなければ大抵森永君はそういう話題をうまく濁してしまうのが常だったから。指輪の話も、森永君が浜田さんを介して伝えようとしたに違いないでしょ?

 もうひとつは、最近何度か飲みに誘われていること。合コンって類いのものでもなく、職場の仲の良いメンバーで一杯行こうかって気楽な集まりだけども。
 これは段階を踏んでいってるところだろうから、そろそろ二人きりで、のお誘いがある頃なはず。それならクリスマスイブは絶好のタイミングだしってことで、私は誘いやすい状況をうまく作ってみたのだ。


 今日森永君は本社に出張だ。予定は知っていたから、私は先日本社にサンプルを送ったとき少し仕込みをしておき、向こうの担当に直前になってから電話した。こないだのサンプルだけど、違うプロジェクトのものが混ざってしまってて……今日こっちから森永くんが行ってるから渡しておいてくれない?ごめんなさい急ぐのよ。森永君は出張先から直帰して明日は振休だから、連休前に受け取ろうと思ったら今夜しかない。私も翌日は午前休、計画は完璧。
 今年は25日が仕事納めだけど、クリスマスが理由で休みを取る人は結構多い。森永君にサンプルの持ち帰りを頼んだとき念のため探りは入れてみたけど、森永君は予定があっての休みではないと断言した。これ以上残業できなくて……という電話の声は随分と疲れているようだった。もし森永君が遠慮してるみたいだったら、こちらから誘ってもいい。いつもの飲み会とは違う落ち着いた店でなら、いい雰囲気に持っていきやすいだろうから。


 新幹線の到着予定時刻まであと2分。私が15分前から陣取っている角柱の左側面に男の人が立った。私は改札から美しく見える待ち姿を考慮して横向きにもたれかかっていたので、その人は改札の正面に立ったことになる。さっきまでは安っぽい香水の匂いをプンプンさせたバカっぽいギャルがいたので(同じくチャラチャラしたギャル男と連れ立っていった)、私は正直ほっとしてちらりと彼の方に目をやった。
 すると視線に気付いたのかちょうど彼もこっちを見たので、私は慌てて向き直った。でも彼は非常に_____なんて言うか_____印象的な雰囲気だったのでつい、そろそろと柱の角に寄り、今度は横目を使って気付かれないように観察してみる。

 森永くんほどじゃないけどかなり背の高い男の人。まず目を引くのはその腰まで届きそうな長髪だった。しかも大正時代かっていう古めかしさの丸眼鏡をかけて。そんなのパンクかビジュアル系か、でなきゃ危ない系アートな人かってかんじだけど、艶のある茶髪をすっきりと一本に括った彼は、そのどれにも見えなかった。
 年頃は私と同じくらい、20代後半ってところ。チャコールグレーのチェスターコートからタートルネックのベージュがちらりと覗いている。薄手のセーターに細身のジーンズ、黒のエンジニアブーツという出で立ちは、カジュアルなのにとても上品に見えた。
 もしかしたら俳優とかモデルだったりして。横でじろじろ見れないからアレだけど、一瞬正面から見れた顔も和風な美形で、しかも肌がキレイだった。
 他にありそうなのはお茶とかお花の家元とか……若先生なんて素敵。想像を膨らませていた私の耳に届いたのは、だけど外見とのギャップが激しすぎる舌打ちだった。

「ったく何やってんだ。おっせーなアイツ」
 そして貧乏揺すり。いやいや、あなたがここに来てから1、2分しか経ってませんけど!?どんなせっかちさんなの!
 思わず横目どころか振り返って見ちゃったけど、彼は今度は気付かなかった。お尻の右ポケットから携帯を取り出し、チラッと画面を確認してまた舌打ち。その中指には意外にも指輪が嵌っていた。

 意外と思ったのは彼は他にアクセサリーらしきものを一切身に付けていなかったから。そういう人でも結婚指輪とかなら可能性があるけど、それなら左手にしているはず。
 っていうかちょっと待って。その指輪、なんだか見覚えがあるような……?


「先輩!」
 記憶を探っていた私はその声にハッとして顔を上げた。しまった、すっかりここにいる目的を忘れてた。
 声は改札の方から、森永君が人目も気にせず大きく手を振り、あのカッコイイんだけどちょっとカワイイ顔に満面の笑みを浮かべて小走りに駆けてくる。

 うーわーキュンキュンする!いつもは名字にさん付けで先輩なんて呼ばれたことないけど、人が多いから一応気を遣ったのかも。黒目がちな瞳をキラキラさせて、頬を紅潮させて。こんな顔は初めて見る。

 森永君は女性社員の相手をするとき、誰にでも同じように親切で丁寧なのが人気のひとつでもあるんだけど。可愛い子にあからさまに誘われているような時ですら、他の男どものように態度を変えたりしない。モテる男の余裕なのね、なんて言われていたのに。
 彼の表情からは溢れんばかりの恋心が隠されもせず表れている。社外だから気が緩んでいるのかな?それにしても私ったらいつの間にこんなに夢中にさせてしまったのかしら。
 ここは混雑する駅の改札口だなんてことは一瞬で忘れた。周りを気にせずイチャつくカップルを恥ずかしい人達、なんていつも思っていたことも忘れた。高揚する気持ちのままつられて手を上げようとしたら、横から怒声が飛んだ。
「おっせーぞアホ!」

 ……………えっ?
 横と言えば当然長髪の彼ですよ。森永君はまっすぐ駆け寄ってきた_____腕組みをしたまま柱から離れもせず、イライラと足を揺すっている彼のところへ。
「ごめんなさい先輩、でもあの〜時間ちょうどですよね?」
「48分着っていっただろが。もう52分だぞ」
「改札通る時間くらい考慮して下さいよう」
 少し身をかがめて甘えたような声で話す森永君はまたしても初めて見る顔だ。話しかけている相手が女の子なら、よっぽど彼女に夢中なのねって思ってしまうような。ちなみに二人とも、じわじわと下がって柱の側面に張り付いた私の存在にはまったく気づいていない。

「でも先輩が名駅まで出てきてくれるなんて思わなかったから嬉しいです。ダメモトで言って良かったぁ」
「あー」
 ごほん、と”先輩”は軽く咳払いをした。声からは険が取れている。
「あの店行くんだろ?親子丼の」
「予約してあります!先輩あの店気に入ってましたもんね」
 ウキウキとした調子で答えた森永君は、声を低めて呟いた。
「先輩とクリスマスデート……!この調子なら夜も……」
 むふふ、と含み笑った森永君の表情はちょっと想像がつかない。私から見えたのはスーツに羽織ったダッフルのトグルを弄ぶ指先だけ_____左手の。銀の輪が嵌っている。
 ”先輩”は鼻を鳴らして柱から離れた。
「ねーわ。俺は明日出勤だっつの」
 私の眼の前で顔を歪めて舌打ちした彼は、そっぽを向いたまま小さな声で付け足した。耳が、赤い。
「……遅出だけどな」
 先 生 こ こ に ツ ン デ レ が い ま す 。
 私天然もの初めて見た。思わず凝視してしまう。柱から離れた彼を追って私の視界に出てきた森永君の顔はまぁ、鼻を伸ばしてデレッデレもいいところ。だいぶイメージ変わったな……。

 んじゃ行こうぜ、と促されて足を踏み出した森永君はふと小さく声を上げて立ち止まった。ふっ、やっと私のことを思い出してくれたようね。
「ちょっと待ってて下さい。オレ会社の人に届け物があって」
「届け物?」
「本社の人から名古屋支社の人に。ここらへんで待ち合わせなんですけど……」
 紙袋を掲げて見せて、森永君は左右を見渡した。二回目に視線が私の前を通ったとき、やっと彼は私の存在に気付き、そして”しまった”という顔をした。
「い……いつからそこにいたんですか?声掛けてくれれば良かったのに〜」
「今ちょうど来たところなの。ごめんね、びっくりさせちゃった?」
 照れ笑いで紙袋を差し出してくる彼の薬指。私の記憶は正しかったみたい。
「じゃあこれ。わざわざ駅まですみません」
「こちらこそ。助かったわぁ」
 ”先輩”は少し離れたところで私たちのやりとりを興味深げに眺めていたけど、私が紙袋を受け取ると、用は済んだなと言わんばかりにすいとそっぽを向いた。だけど私の視界の左隅には、誇らしげに目を細めた笑顔が、残像のように焼きついた。

 そう、そういうことだったのね。つまり、その、森永君はホ……道理で誰も落とせないハズだわ。
「本当にありがとう。それじゃあ良いお年を」
 私は意外とダメージを受けてない自分に気付いた。いつも通りの態度で接していられてると思う_____どっちにしろそわそわしちゃってる森永君は気づきゃしないだろうけど。

「良いお年を。では失礼しまーす」
 さっさか歩き出した”先輩”の後を追う森永君の足取りは踊るようだった。
 事実を知ってしまうと色々と辻褄が合う。手を挙げて応えると、私は彼らに背を向けてとりあえず駅から出た。暖冬とはいえ外の空気は冷たく、構内で蓄えた熱は白い息となって吐き出され、頭を冷やしていく。
 ふぅーっと長い息を吐いて、両手をポケットに突っ込んで、それだけだった。ショックを受けるわけない。私は森永君に恋なんかしていなかったのだから。
 森永君のことは確かに好きだけど、そりゃいい子だし、みんなからモテるカッコイイ彼なんて、優越感を感じるとか、結局そんなところ。だって私の目はあんな溢れんばかりの愛しさをこめて彼を見つめてはいない。態度は素っ気なくても全てを受け入れたような、深い眼差しでもない。
 焦るのはやめよう。いつかあんな風に想い合える相手が見つかるまで。素直にそう思える出来事だった。


 さて帰ろうかともう一度駅に入って歩き出すと、携帯電話に着信があった。バッグから取り出して発信者を確認する。その人からは、実は一時間近く前にもかかってきてたけど、身支度に余念のなかった私はかけ直しもしなかった。
「もしもし」
『おー、もしもしー浜田だけど!』
 陽気な声と一緒に周囲の喧騒が耳に流れ込んでくる。多分いつもの居酒屋で、いつものメンバーで、といったところだろう。今日は森永君はいないけど。
『いま名駅で呑んどるもんで、暇やったら出てこやぁ』
 酔うと名古屋弁の出る浜田さんはすでにご機嫌みたい。一時間前から呑んでるのかもしれない。
『あ〜でもクリスマスか。予定あるなら無理言わんし』
 私がうっかり黙り込んでいたので、誰かといると思ったのかもしれない。電話の向こうの賑やかさは相変わらずだが、声は少しトーンを落とした。
「や、予定なくなっちゃったんですよ。今ちょうど名駅にいるし、行きまーす」
『おー』
 努めて明るい声を出すと、浜田さんからはホッとしたような返事が返ってきた。いま名駅のどこ?と聞かれて歩きながら場所を説明する。
『そしたら桜通口から出て……』
 相槌を打ちながら進行方向を変える。とりあえず浜田さん達とでもパーッとやろう。いつか誰かとクリスマスイブを過ごせるようになる日まで。




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