PSS【汝がために捧ぐは秋の宵の夢 1】

えっと。8月2日ですね、こんにちは。

もう一回言っときましょう。
8月2日ですね。
兄さん、お誕生日おめでとうございます!\(^o^)/

あの、察していただければと思います。



改めましてこんにちは。
またパラレルで恐縮ですが、続き物を始めさせていただこうかと。
以前ちょろちょろ書いてるものがあります、と言っていたものとは違うのですが。

実は色々言い訳があるのですが・・・一言で言えば「白拍子」です(((( ;゚Д゚)))

振り返ればすでに3年半も前になるのですね、某様のブログで白拍子がアップされたのは。
当初はSSの予定がないとのことだったので、その美しいイラストにハァハァしてそれはもう滾っていた私は耐え切れず妄想をアウトプットしておりました。
ブログも開設していなかったので公開など考えてもいなかったですし、その後某様が公式に白拍子SSを始められたので用済みとばかりにしまい込んでいたものを、今回引っ張り出して来たわけです。
某様のと全然イメージ違うので、「こんなの違う!」と思われる向きもあるかと思いますので、そういう方はスルーでお願いしますm(_ _)m
でも昔のってなかなかに恥ずかしい。加筆修正しながらお送りします。




汝がために捧ぐは秋の宵の夢



 武家の台頭によって政権の中心が鎌倉に移り、はや数十年。時の幕府が置かれる若宮殿を頂点に栄える街は今日も賑やかだ。通りには活気が満ち、行き来する荷車の車輪が立てる軋みに武家が駈る馬の蹄の音、それに輪をかけて物売りの声がかまびすしい。雑然とした喧騒の中、目抜き通りに面したある御家人屋敷では、朝から雅やかな楽の音が響いていた。
 屋敷は場所柄も良ければ規模も大きい。昼過ぎのくっきりした陽射しが真新しい瓦に反射して目映く通行人の目を引く。おそらくは、その権力の隆盛たるや天下に名高い執権職ゆかりの人物の所有なのだろう。残念ながら人の背よりも高く物々しい築地が屋敷を囲っているために、その内を窺うことはできない。しかし往来を行き交う人々が蹴立てる砂埃を避けて塀に止まった一羽の雀には無論関係がなく、まるで聞き入るようにちょんと小首を傾げた小鳥は音色に誘われるままに塀から飛び立った。
 柔らかな秋風に乗って南へ滑空し、やがて雀が降り立ったのは中庭に美しく整えられた松の梢だった。見下ろせば寝殿の正面、遣り水手前の広々とした庭には舞台が設けられ、衣装もあでやかな舞姫が技を余さず披露している。
 季節は長月の末、数組集まった芸団はこの冬の逗留先を求めるため必死に芸を競っていた。冬場は旅回りが困難になる。娯楽の少ない季節に一層高まる地方での歓迎も捨て難いものだが、安定した食い扶持と暖かい寝床が確保できれば何よりのことである。

 雀の見守るなか、音楽は軽快な拍子と掛け声に変わっている。舞台では数人の小柄な男たちが軽業で場を大いに盛り上げていた。見物人は寝殿のほか対屋にもずらりと居並び、庭に控える下人たちも楽しむことを許されているようだった。歓声が其処此処でおこり、同業者の優れた技に唸る声もある。集ったのは巷で評判の芸団ばかりなだけに、どの芸人もまったく見ものであった。
 彼らは市中で興行していたところ、遣いの者に声を掛けられたのだ。”さるお武家様が家人の慰めにと興を求めている。御目に適えば寝食を保証するゆえ競ってみせよ”と。日時を指定されて訪ねれば舞台まで用意されての大掛かりな趣向、これはずいぶんと高貴なお方のご覧だと皆一様に張り切った。簀子でさんざめくのも高価な衣装を纏った人々ばかり、それでは寝殿の奥、御簾に囲われた中におわすのはいったいどんな御身分の人物だろうか。見初められれば栄華を極めることも夢ではないかもしれない。殊に舞姫達の力み具合は無理からぬところであった。
 彼らの期待も虚しく特に御声がかりもないまま、最後に壇上に上がったのは小柄な少女だった。白拍子舞らしく水干を身に付け、腰には白鞘巻の太刀を帯びている。整った顔立ちではあるが貧相な風体で、先程までの舞手たちのような色香には及びつかない。舞台に向かう視線はあからさまに散じて雑談に興じる声が広がった。
 見ものは終わったと言わんばかりの雰囲気に、衆目慣れしない者なら気後れしそうなものだが、その白拍子は少年のような小気味良い裾さばきで中央に立つと、鼓の音を合図に蝙蝠扇を構えた。

 ひとり、もうひとりと舞台に視線を転じていく。いつの間にか広い南庭は、鼓と詠を残して人声が静まり返った。舞い始めた白拍子は、その身に纏う空気を一変させていた。
 舞の技もさることながら佇まいは優美かつ清冽。先ほどは見窄らしく映った黒の浅い髪色すら光を弾いて神々しいほど。抜けるような白い肌に、薄い唇に刷いた紅が映える。切れ長の眼に湛えた表情は男とも女ともつかず、一切媚びを含まない。少女の伎芸天もかくやという姿に、中庭には感嘆が満ちた。

「ほぉ……これは」
「神懸かりめいておりますな」
 白拍子が舞い終えて礼を取ると、再び騒めきが辺りを包んだ。扇子で口元を隠して囁きあっても、皆が皆では小声では済まない。それほど観衆を惹きつけたにも関わらず、少女は得意げにするでもなくあっさりと舞台を降りた。
 色めき立ったのは周囲のほうだった。その白拍子を擁していた芸団の長に家臣から声が掛かり、舞台まわりの芸人らからは歓喜と落胆の声が入り混じって漏れる。勝負はついたと、誰しもそう思ったからだ。
 家臣に導かれ、寝殿の階下に跪いた白拍子は顔色も変えない。自身の芸であれば当然との驕りか、その誉れを理解できない愚鈍か。好奇の視線が注がれるなか、御簾の中の人物と小声で会話をしていた館の主と思しき男が少女に向き直った。
「白拍子殿、見事であった。こちら太守殿にはそなたがいたくお気に召された。近く侍れとの仰せ、有難く受けるがよい」
 御簾の中の人物が権力の頂点であったことが明かされ、舞姫たちから悲鳴に近い声が上がった。彼女らにとっては芸だけでなく、身体でも繋ぎ止めることが出来れば最高の相手である。過去に白拍子が幾人も、権力者の寵愛を受けて一世を風靡したことは良く知られており、芸人にとっては唯一の立身出世と言える。競い合った結果とはいえ見初められた幸運を羨み、少女が喜んで下命を受けるものと疑わなかったのだが_____顔を上げた彼女の返答はその場の誰の予想をも裏切った。
「俺は男だ。てめぇの尻でも舐めてな狒々じじい」

 中庭は凍りついた。一瞬の間ののち、実は少年だった白拍子の傍らに控えていた家臣が気色ばんで腰に手をやる。白拍子が怒号に肩を強張らせたものの地についた手を離しもしないところを見ると、覚悟の上での放言だったらしい。

「まあ、待て待て」
 緊迫した空気にそぐわない、呑気な声が掛かった。簀子に居並ぶ面々が一斉に振り返る。つまり家臣を押しとどめた声は最奥の、しかも御簾の向こうから発せられたのだ。側に控えていた男が慌てて押さえようとするのが間に合わず、御簾は無造作に端から捲られた。のっそりと現れた男を見て、思わず仰け反ったのは白拍子だけではない。
 館の者たちがすかさず平伏するのを見て、芸人らもばらばらと従った。まさかこの様な場所で姿を晒すとは思いもよらないが、周りの反応からして執権その人とみて間違いなかろう。
 驚いたのはその躯体だ。六尺余りはあろうかという大男で、ついでに言えば少年の暴言とは異なりまだ若い美丈夫だった。軽い調子で皆に顔を上げさせ、気安く寝殿から出て来ると階に腰掛け、黒々と丸い瞳で正面に膝をつく少年を見つめる。
「悪かったな、おなごと取り違えた訳ではない。お主まだ清い身か?白拍子だというに?」
 これは致し方ないことだった。そもそもは巫女舞だったにしても、今日では白拍子と言えば遊女を指すのが普通、現にこの装束を纏うものは男だろうと子どもだろうと身を売っていた。だが。
「白拍子は舞が本分だ。おめーらの認識が間違ってんだよ」
 少年は己の職分に誇りを持っていた。強い口調で言い切る少年を更に目を丸くして見た執権は、唐突に吹き出して膝を叩いた。
「そうか……そうか!では存分に舞ってもらうとしよう!」
 言うが早いか大男は履き物も履かずに庭に降り立ち、少年を軽々と抱き上げた。
「っ何すんだっ!!」
 驚いたのは本人だけではない。固唾を呑んでいた周囲も、狼狽えて成り行きを見守るばかり。細い手足が盲滅法振り回されるのを物ともせず、男は少年を抱えたまま階を上がりさっさと細殿へ向かった。
「暴れるな、無体は致さぬ。山口、あとはよしなに。明日若宮へ戻る」
 山口と呼ばれた御家人は先ほど白拍子に声を掛けた人物であり、唯一人、主賓の行いにも慌てず平然とした顔をしている。山口は土を足の裏につけたまま去って行く後ろ姿に平伏し、呆気にとられる人々をよそに素早く酒肴の支度を命じた。


「よし、では舞え!」
 すとん、と降ろされて少年が目を白黒させている間に様々なものを捧げ持った女達がどこからかしずしずと現れた。屋敷の北側なのだろう、品の良い小庭に面した広い部屋に調度を置き、蔀戸を開けて、執権のまわりには膳を並べていく。
「お主、名は何という」
 慣れた顔で奥に座り、配膳の女房も手を振って下がらせると、男は手酌で杯を満たしすっかり寛いだ様子だ。男は異様なほど上背があるが横幅はそうもなく、柔和な顔つきもあって座っていれば威圧感は感じにくかった。
「宗……」
 かと言って少年は寛ぐどころではない。この男は一体何がしたいのか。何も考えが浮かばぬまま、暴れたせいで乱れた烏帽子を直し、袴に差した蝙蝠扇を取り出して居住まいを正した。
「宗御前か。なかなか良い」
 何が良いのやら頷く男を見下ろし、少年は舌打ちした。平伏すらしておらず、今更取り繕ったところで意味はない。すでに充分打ち首に価するだけの不敬を働いてしまっている。後はどうなれ、もう腹を括るしかない。
「ただの宗だよ。所詮踊子だからな、御前なんて偉そーなもんじゃねぇ」
 憎まれ口もまったく堪えないらしい男は、酒杯を掲げて楽しそうに笑った。
「では宗、舞を所望する」
「……御意」


 伴奏が無いので自分で詠って舞って舞ってどれほどか、止めよと声は掛からない。意地になって舞い続けたもののうろ覚えの歌さえ尽きて、とうとう宗はへたり込んだ。
「おお、済まんの。つい夢中で見ておったわ」
 どうやら試されたわけではなかったらしい。時折り酒を含むほかほとんど動きもしなかった執権は、庭に伸びた影を見て目が覚めたような顔をした。
「おい、俺にも飲ませろよ」
「酒しかないが……呑める口か?」
「水みてーなもんだよ」
 武家に酒をたかるなど、まったく団長が聞いたら卒倒しそうだが、喉の渇きには逆らえない。それに宗はもう、どこか打ち解けたような気持ちになっていた。舞いながら偶さか目が合えば、執権が心底楽しんでいる様が窺えたからだ。視線に好色さはなく、子どものように愛敬のある瞳は、歌で語られる世界に合わせてくるくると表情を変えた。この様に舞そのものだけを受け入れられるのは、白拍子舞いを始めてからついぞ無かったことだった。

 執権から酒杯を受け取ると、それは宗の知っているものとは違った。濁りがなく茶色味を帯びた透明の液体。そっと口に付けると、今まで味わったことのない芳香が口内に広がった。
「これほんとに酒か……?!うめぇ……」
 大男は感嘆する宗に首を傾げかけ、ついで納得したらしく頷いた。この少年はまだ貴族の屋敷へ上がったことがないのだろう。それもそうだ、でなければとっくに誰かに手を付けられているに違いない。
「お主らの呑んでおるのは混ぜ物が多いであろうからな。これが本来の酒の味だ」
 初めての味に興奮してうまいうまいと繰り返す宗を愛いのぅ、と眺めて執権はどんどん酒を足してやった。水みたいなもの、と豪語した宗ではあったが流石に純度の高い酒ではそうもいかないようだ。気持ちよく舞って疲れた身体に甘い酒が沁み入る。勧められるまま調子に乗って呑んだ宗は、すっかり酔いがまわってしまった。色の白い顔に朱を昇らせ、目つきも呂律も怪しくなってくる。

「んじゃ~おぇらおまえんとこいくの」
「ああそうだ、冬のあいだ面倒見てやる」
「みんら?からこも?」
「から……?誰だ」
「いもぉとぉ~」
 へにゃへにゃと笑う宗は執権の膝に凭れかかって膝頭をぽんぽんと叩いた。水干から袖を抜き、すっかり寛いでいる。
「お主それでよく今まで無事だったな」
 あまりにも無防備な様子に執権は呆れて膝の上の少年を見やった。どんなに気丈でも、ちょっと酒を差されただけで、簡単に手篭めにされてしまうではないか。
 呑みながら話したところによると、童舞いから白拍子舞いへと変えてまだ長くはないこともあるが、団長の為人も大きいようだ。無理強いしない心持ちを褒めてつかわさねばなとひとり頷く。
「あ、からこ?」
「おっ!……と」
 何が可笑しいのか膝でくすくす笑っていた宗が不意に頭を上げた。執権は頭突きされるのをすんでに躱し、大きく息をついた。
「かな……みんら、は?」
 危うく幕府最高権力者の顎に一発食らわせるところだったことにも気付かず、宗はきょろきょろと周りを見渡し、小首を傾げて下から覗き込んでくる。執権は軽く頭を抱え、溜息をついた。
「芸団の仲間なら邸内のどこかに寝場所を得ておるだろう。山口が心得ておるからの。明朝我が屋敷に向けて出立する」
「なんらと~!!」
 酔っ払いの白拍子は今度はいきなり立ち上がるので、脛を踏まれた執権は座ったまま大急ぎで後ろへ下がった。
「しょこいくぞ~!」
「お主は儂の馬に乗せるからよい!」
「なんらとばかにすんな~」
「こらそちらは庭だ!」
 見当違いな方向へによろよろと歩き出した白拍子は、自分の袴を踏んづけて派手に転んだ。優美が聞いて呆れる。執権は先ほどから傾いでいた烏帽子がとうとう転がり落ちるのを見ない振りしてやり、続き部屋に向かって手を叩いた。
「誰かある!」
 烏帽子を直した宗は数人の女達に伴われ、礼儀作法に厳しい山口家の女房に小言を言われながら、それでも楽しげに出て行った。団員達のいるところまで送り届けるよう言い付けてある。見送った執権は奥に座り直すと、くつくつと笑いながら杯を干した。



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